What’s in my cup? — MAQUETTE COFFEE SHOP × Gonzalo Mamani Catuai Washed

この “What’s in my cup?” では、ロースターがあるコーヒー生産者と出会った物語りに耳を澄ませます。地球の裏側ほど離れた場所で生きるコーヒー生産者とロースターは、どのように出会い、いまどのように関係を育んでいるのか。そのあわいを、ロースター自身の言葉で語っていただきます。
第二回目となる今回は、愛知県・豊田市のロースター MAQUETTE COFFEE SHOP の鈴木祥平さんにインタビューさせていただきました。ミニマルアートを思わせるシンメトリーな建物の一階がMAQUETTEさん、そして喫茶の二階は、奥様が営む生活雑貨と洋服の店 sabot さんです。お二人はそれぞれのお店の運営だけでなく、音楽イベントを主催されるなど、日常とアートを行き来するような活動をされています。
ところで、ロースターのみなさんは、初めて焙煎機に投入したコーヒーを覚えていますでしょうか。コロンビアやブラジルなど、焙煎しやすいメジャーな生産国のコーヒーだったという方も多いのではないでしょうか。鈴木さんとゴンサロさんの出会いの物語の種は、その「初めて焙煎したコーヒー」にありました。
それでは鈴木さんに、お話を伺ってみましょう。

ラッパー・billy woodsへのオマージュとして、作品のメッセージ性、匿名性を重んじ、対面での関係性を大切にしたいという考えによるものです。
― ゴンサロさんのコーヒーとの出会いについて、教えてください。
お店を始めたのが12年前なんですが、そのときに焙煎機を導入して、テスト焙煎をするためにウチュマチ(ボリビア・カラナビ地区の村の名前)のコーヒーを60キロ、6バッグ購入したんです。ラベルには「12名の小規模生産者によるウチュマチのコーヒー」と書かれていました。今になって思うと、そこにはきっとゴンサロさんや、その親戚の方たちのコーヒーも含まれていたんじゃないかな。
2023年に、TYPICAのリストの中にゴンサロさんのコーヒーを見つけ、彼の農園がウチュマチにあると知って、「ウチュマチのコーヒーならきっと美味しいはずだ」と思い、思い切って購入しました。たしか15ボックスほど、300キロくらいだったと思います。
実際に焙煎してカッピングしてみても、やはりウチュマチの味がしました。焙煎したときのあの感覚がよみがえるというか、初心に帰るような気持ちになりましたね。

― ゴンサロさんのコーヒーの品質を、どう捉えていらっしゃいますか。
ゴンサロさんを含め、ボリビアのコーヒーは、日常の中で美味しさが積み重なっていくタイプだと思っています。
うちは焙煎豆の販売がメインなんですが、ご自宅で一袋200グラム、20杯ほどを飲み終えたあとに「いいコーヒーだったな」って思ってもらえるようなコーヒーを目指しています。コーヒーを抽出して提供する場合は、一口目で「わぁ、美味しい!」という感動や、その一杯で何を表現するかが求められるんですよね。でも、コーヒー豆を買ってもらう場合は少し違っていて、毎回「おお、すごい!」ってなるような味だと、きっと毎朝飲むような存在にはならないような気がします。気付いたら自然と飲み切っていた、そんなコーヒーを理想としています。
ボリビアのコーヒーに派手さはありませんよね。今はいろんな精製方法や品種で特徴的な味をつくることもできますが、華やかさよりも酸味や旨味がじわじわと広がる美味しさがある。その辺が日本人的でいいなと思っています。

― 2024年のクロップの品質はいかがでしたか。
僕が期待している品質からすると、2023年のクロップはちょっと崩れたんですよね。なんか足りないというか。「あれ、おかしいな」と思うことがあって。欠点豆が混ざっていたり、同じタイミングで焙煎しているのに焙煎度合いがバラバラだったりして。煎りムラのある部分を省いていくと、「あ、ここにゴンサロさんがいるな」っていうのが見えてくる感じでした。2024年のクロップは、アーリークロップ(収穫初期)のサンプルは少し心配なクオリティでしたが、メインクロップの品質は良くて、あ、戻ってると思って安心しました。
― 2023年のクロップについて、ゴンサロさんは、生産量が足りず、他の農園のコーヒーをブレンドしたかもしれないというキュレーターからの情報がありました。ご本人は否定しており、真相はまだ分からない状況です。
ボリビアに行って、直接いろんなお話を聞きに行けたらいいんですけどね。
― そんな、まだまだ見えない部分も多く、底が知れないボリビアですが、なぜ惹かれてしまうのでしょうか。
ボリビアの人々って控えめで、自分の民族や家族を大切にしていて、日本人と近しい傾向があると感じます。例えば、コロンビアなどメジャーな生産国の生産者は、3代目や4代目の若者が海外に出て勉強して戻ってくる。そして、自分の農園で新しい精製方法を試したり、希少品種を栽培しようとする。だって、消費国側はテロワールを活かしてくれと言うけれど、それに飽きたらエチオピア系の品種を植えてほしいとか、アナエロビックを生産してほしいとか言いますからね。そうすると、元々その土地が持っていたテロワールが薄まっていく面もあります。いろんなコーヒーがありますが、僕はこれ(ゴンサロさんのコーヒー)がいいんですよ。この何にも染まっていない土地の風土の味がいいんです。
ボリビアにモコチンチっていうドリンクがあって、ドライピーチを煮出して、シナモンと砂糖を加えた飲み物なんですけど、その風味や、コーヒー生産者がずっと噛んでるコカの葉のハーバルな風味を感じる時もあります。そういう感覚こそがテロワールだと思います。

― お店では、ゴンサロさんのコーヒーをどのように提供していますか?
僕らはゴンサロさんのコーヒーを、少しずつ形を変えながら、一年を通して楽しんでいただけるように提供しています。
もともと常連さんには、僕らのほうから積極的に「こんなの入りましたよ」「次はこれいかがですか?」といろんなコーヒーを紹介していたんですけど、だんだんお客さんの来店ペースが上がって「新しいの入りましたか?」と尋ねられる流れになってきたんです。
それで、自分の中で考えたんですよね。新しいコーヒーを次々と提案するだけじゃなくて、「今年のゴンサロさんのコーヒーを一年通して扱う」という売り方もありなんじゃないかと。
たとえば、到着してフレッシュな時期は浅煎りで提供し、風味が落ち着いてきた頃には深煎りにする。そんなふうに、通年を通してゴンサロさんのコーヒーを味わいましょう、という感じです。ちなみに、今の焙煎度は中深煎りくらいで、先週までは中煎りで販売していました。同じコーヒーをいろんな形で楽しめる一年のサイクル。そういう提案ができたら面白いなと思っています。
今のスペシャルティコーヒーって、情報が次々と発信されて、その “情報の魔力” にお客さんが引き込まれている感じがします。まるでコーヒーではなく情報を飲んでいるみたいな。そうじゃなくて、本当に「うちの味」とか「この地域の味」として届けていくには、もっとゆっくりと、美味しさを積み重ねていくようなやり方が大事だと思っています。

― どんな味わいを理想としていますか?
二ヶ月とか三ヶ月のあいだ、毎日飲んでも飽きずに「やっぱり美味しいな」と思ってもらえるコーヒーですね。
お客さんは言葉で表しにくいと思いますが、僕としてはクリーンカップと余韻の甘さを重視しています。フルーティーで酸量はあるけど酸っぱくない。そういうアンビバレントな感覚ですね。
コーヒーを、ちょっと出汁っぽくつくりたいんですよ。出汁って日本独特の文化じゃないですか。魚を捌いて、燻して、乾かして、飲む(食べる)までの加工工程が長い。コーヒーも同じで、収穫して、発酵させて、乾燥させて、挽いて、お湯で抽出して味わう。そのプロセスにすごく共通点を感じるんです。鰹節って、実は酸があるんですよ。コスタリカとかコロンビアのコーヒーにも通じるような。でも、誰も鰹出汁を「酸っぱい」とは感じないですよね。そこには旨味があって、それが味わいを包み込んでいる。そういうコーヒーがあるといいなって思っています。

― お客さんには、どのように飲んでもらいたいですか?
うちは一応目安はありますが、レシピはあまり出していません。基本的には、その人に合った淹れ方を提案するようにしています。レシピがあると、それ通りにやれば美味しくなると思いがちですが、本当に大事なのは飲んでどう感じたか。美味しいと思えたなら、それがその人の正解なんです。
もちろんレシピ通りに淹れて美味しく感じるのも良いことですが、それだけが正しいわけではありません。むしろ、感覚からずれた “正解” を押しつけてしまうことにもなりかねない。だから僕は、「どんな味を美味しいと感じますか?」というところから話を始めて、その人の生活や好みに合わせて「じゃあ、これくらいの感じで淹れると美味しいと思いますよ」と伝えています。
次に来てくださったときに「どうでした?」と聞くと、「美味しくできました」「もう少しこうがよかった」といった会話が自然に生まれる。そういう関係が理想なんです。レシピを固定してしまうと、それが “正解” になってしまって、味が気に入らないとき、自分の淹れ方が悪いのかな、と感じてしまう人もいる。でも、コーヒーの正解は人それぞれですよね。「これが自分の好きな味だ」と思えたら、それで十分なんです。
最近は浅煎りが人気ですが、だからといって深煎りがダメなわけではありません。どちらも良くて、どちらも美味しい。お店としては「これもいい」「あれもいい」と選択肢を広げ、美味しさの幅を広げていくことを大切にしています。
美味しい状態にしっかり仕上げたコーヒーを届けて、あとはお客さん自身が「自分ならこう淹れる」と思うやり方で楽しんでもらえたら、それがいちばん嬉しいです。固定観念を少しずつ外していければ、どんな焙煎度合いでも「これ、美味しいね」と感じられるようになっていくと思います。

― どのようなアプローチで焙煎されていますか?
コーヒーをしっかり密度のある液体として抽出するために、短時間でギュッと熱量をかける焙煎を意識しています。時間はだいたい5分半から6分半くらい。一般的には9〜10分かける人が多いと思いますが、僕は短時間で中までしっかり火を通し、コーヒー豆の成分をできるだけ失わないようにしています。
うちのコーヒーは、18倍(コーヒー粉1gに対してお湯18g)くらいの抽出で飲むのをおすすめしています。一般的には15〜16倍、もう少し濃いめで淹れる人が多いと思うんですが、うちの焙煎はそれより薄めでも、しっかり味が感じられるように仕上げています。
多くの人は、元々あるプロファイルに沿って、その中で自分らしいアレンジをしていると思うんですが、僕はそうじゃなくて。深煎りなら「焦がしていく」という感覚だし、浅煎りはまったく違うアプローチをします。かける熱のイメージ自体が全然違うんです。
― 鈴木さんとお話していると、ロースターとしての視点がかなり独特だと感じます。
そうですかね。例えば、「石橋をたたいて渡る」という言葉がありますが、それは石橋がそこにあることが前提で、あるものに対して疑っているということですよね。それに対して、自分で橋を架けたい人もいるだろうけど、僕がやりたいのは、穴を掘ってトンネルを通す、みたいなことかもしれません。こっちに穴を掘っていけば、別世界があるんじゃないかっていう。 例えば、現代アートの世界でも、ビジネス的に上手くやっている人は短期的には評価されるけど、100年後にどう語られるかはわからない。僕はむしろ、今の人には理解されないけど、100年後にその良さにみんな気付くくらいがいいなと思っています。

― 最後に、ゴンサロさんと一緒に実現したいことを教えてください。
スペシャルティコーヒーの生産を始めたばかりの生産者は、まだ価格と品質のバランスが取りにくい人もいると思います。でも、品質を上げたことで価格が上がって、収入が増えるという経験ができたら、きっと見える世界が変わってくるかもしれません。僕がゴンサロさんのコーヒーを全量買わせてもらったことが、その一助になっていたらな、と思います。
スペシャルティコーヒーを突き詰めていくと、結局のところ「人」なんですよね。品質がどうかというよりも、スペシャルな人かどうか。その人がどういう美学を持って栽培しているか、焙煎しているか、どう味わっているか。
TYPICAのナラティブの中で、彼自身がまだ焙煎された自分のコーヒーを味わったことがないというエピソードが印象的でした。自分のコーヒーがどう飲まれているか、どんなふうに感じられているかを知ることができたら、ゴンサロさんも、また次のステップに進めるのかもしれません。
そういう意味でも、ぜひボリビアに行って、彼の農園を訪ねたいですね。

初めて焙煎したコーヒーをきっかけに、生産地に思いを寄せる。そんな素敵な生産者との出会い方があるのだと知りました。鈴木さんのお話を通して、コーヒーのテロワールとは風味だけにとどまらず、コーヒーそのものの成り立ちの中に感じるものなのだと、改めて実感しました。
また、前回の青野さんと同じく、出汁や旨味の話題が出たことを興味深く感じました。旨味が、ボリビアのテロワールの共通言語になるのではないでしょうか。
インタビューのあと、2025年はゴンサロさんのコーヒーがオファーされないことが分かりました。ボリビア国内でのコーヒー価格の高騰により、ローカルで販売された可能性が高いのですが、詳細は分かっていません。本当に残念です。ゴンサロさんのように、初めてダイレクトトレードに取り組む新しい生産者と、どのようにサステナブルな関係を築いていくか。それは、これからTYPICAが取り組んでいきたい重要なテーマのひとつです。ボリビアの次の収穫に向けて、TYPICAとしてもアクションを起こしてまいります。
鈴木さん、お話を聞かせていただき、有り難うございました!
今回登場したコーヒー:Gonzalo Mamani Catuai Washed (農園ツアー)
インタビュアー:藤井優衣、今岡ありす(コミュニティマネージャー)
テキスト:山田彩音