「コーヒーの2050年問題」の本質的な解決策を探り続ける ~OKAGESAMA Forest Shapers~

世界市場では石油に次ぐ貿易規模のコーヒーだが、気候変動により、アラビカ種の栽培適地の半分が失われ、生産量も大幅に減少する可能性が指摘されている。通称「コーヒーの2050年問題」である。
「美味しいコーヒーをずっと美味しく」をコンセプトに、コーヒーのサステナビリティを高めるべく、生豆のダイレクトトレードを媒介してきたTYPICAは、2025年秋、新たなプロジェクト「OKAGESAMA Forest Shapers」を立ち上げた。
同プロジェクトは、コーヒーの未来を「これからの世代」である中高生15名と一緒につくっていくもので、メンバーが主体的、能動的にOKAGESAMAの森づくりについて企画、発信し、共感を広げていくことをミッションとしている。現在、メンバーは月に一度の定例会を行っており、今後はイベント開催や生産者とのオンライン交流、現地での植樹活動等にも関わる予定だ。
※本取り組みは2025年ユネスコグローバル・シチズンシップ教育賞に、日本ユネスコ国内委員会からノミネートされた。

世界の問題を自分ごとに
奈良県立国際中学校3年生の和田尚己さん、原田頼和さん、新堂幸菜さんは、Forest Shapersで活動するメンバーの一員である。同校は、高校が2020年、中学校は2023年に開校した中高一貫校で、奈良県内の公立校ではじめて「国際バカロレア(IB)中等教育プログラム(MYP)・ディプロマプログラム(DP)」の認定を受けるなど、「真の国際人を目指す」ための教育がおこなわれている。
そのカリキュラムの柱となっているのが、「グローバル探究基礎」という必修科目だ。大学のゼミのような同科目では、身近なテーマから世界につながる問題を見つけ、グループ内で話し合いながら自分たちにできる解決策を見つけ、行動に移していくことが目的とされている。担当教員の松本真紀さんはこう話す。
「世界の問題を調べて発表するだけで終わらず、自分ごととして捉え、自分たちにできることを行動に移すところまで、生徒たちには期待しています。私たち教員はいわば伴走者。あれこれ教えるのではなく、一緒に考えるなり、問いかけるなりして彼らの探究活動をサポートしています」

問題ではなく、美味しさを訴求する
同校の中学3年生は、3つのゼミに分かれて「グローバル探究基礎」を進めている。その一つが「理解と尊重で世界をきずく」ゼミで、パーム油や日本国内での多文化共生、イスラエル・パレスチナ問題など、各生徒が興味、関心のあるテーマごとに6つのグループに分かれている。Shapersメンバーの和田さん、原田さん、新堂さんは、3年生になって以来、コーヒーやフェアトレードに的を絞って探究してきた。
和田「2年生のときからコーヒーは日常的に飲んでいたものの、ペットボトルやドリップマシンでつくるインスタントだけ。そんな僕が変わったのは、授業でドキュメンタリー映画『美味しいコーヒーの真実』を観たのがきっかけです。生産者にはほとんど利益が届いておらず、極貧状態から抜け出せない──という業界の現状を知ったことで、意識が変わったんです。その後コーヒーについて探究を始めてからは、気持ちいい消費をしたいという思いが芽生えて、生産者に適正な利益が支払われるフェアトレードのコーヒーを飲むようになりました」
同じ目的を持って探究を始めた3人だったが、活動はなかなか思うように進まなかった。コーヒー関連企業などに訪問や取材を依頼しても受け入れてもらえず、かといって自分たちだけでは打開策を見つけられない……。頭を悩ませる日々が続いていたときに、TYPICAの葛西社長から旧知の仲である松本さん宛に「Forest Shapersに参加しないか」という案内が届いたのだ。そして、Shapersに選ばれた3人は、9月28日のOKAGESAMA Coffee Expoに参加し、日本を訪れた生産者と交流する機会を得た。

新堂「タンザニアのレオンさんから『コーヒーの生産を続けていくためには森を守ることが大事だ』と聞いたことが印象に残っています。生産地の現状というか生産者の声を聞けたので、これをもとに具体的な行動につなげていきたいと思っています」
原田「コーヒー業界に限らず、貧しい人たち、困っている人たちを支援する方法として一般的なのは寄付ですが、それが本当に役に立っているのかどうかはわからないですよね。だからこそ、彼らが本当に困っていることは何なのか、何を必要としているのかを知って伝えることが大事なのかなと思っています。広報ツールとしてSNSやポスターはありきたりだと思うので、人の興味を引くような方法を考えているところです」
和田「今回、イベントに参加して、普段飲まない果実味のあるコーヒーの美味しさを知ったとき、問題を訴えるよりも、美味しさに興味を持ってもらう方が有効なんだと感じました。気候変動によって自分が好きなものが飲めなくなるのは困る、生産を続けてもらえるようにできる範囲で貢献しよう、という気持ちで行動を起こしてもらえるような発信の仕方を考えていきたいと思っています」

大事なのは悩み続けること
3人がOKAGESAMA Coffee Expoに参加する約3週間前の9月8日、学校の文化祭で彼らはひとつの“失敗”をしていた。コーヒー業界の問題に目を向けてもらうべく、ポスターを展示したが、来場者からの反応は芳しくなかった。カルタやすごろくを自作し、多くの来場者の足を止めていた他のグループを見ながら、自分たちに欠けていた視点を自覚したのだ。(その時の学びと、OKAGESAMA Coffee Expoで得た学びを踏まえて行った11月1日のイベントにおけるポスター発表会では、育友会が選ぶ賞を受賞した)
和田「そういう失敗も、プロセスの一部だと捉えています。自分の消費、購買行動が何につながっているのか、川上にいる人たちにどんな影響を与えるのかを理解してモノやサービスを購入する人を増やしていくために、何をどう伝えるべきか、試行錯誤しながら実践していきたいと思っています」
新堂「多くの人たちに現状を知ってもらうことはひとつの目標ですが、それはゴールではありません。生活者一人ひとりの意識を変え、行動や選択を変えていくために、農家さんにきちんと対価が還元されるフェアトレードコーヒーやスペシャルティコーヒーに触れてもらうきっかけ作りをしていきたいです」
原田「TYPICAさんからは、長期休暇中に生産国を訪問する機会を提供していただけるので、それに参加し、自分の目で見たことや感じたこと、現地の人たちが本当に困っていることを自分の言葉で発信していきたいと思っています」

もっとも、彼らが向き合っている問いは、大人でも簡単に答えを導き出せるようなものではない。だからこそ同校では「具体的な行動に至らないまま卒業しても構わない。すべての活動を無理やり行動に結び付け、表面上解決したように見えるキレイな活動にしてしまわない」よう心がけている。
松本「生徒たちが悩むこと、モヤモヤすることを大事にしています。彼らにありがちなのが『◯◯な世界になったらいいと思います』といった他力本願な姿勢や、ポスターをつくって済ませようとする姿勢。そういう場面を見かけると、教員の方から『そんなんで何が解決するの?』『誰のためにやってるの?自己満足やったらあかんよ』と突っ込んで問いかけるようにしています」

OKAGESAMAForest Shapersにとってひとつのロールモデルとなるのが、1977年にケニアで創設されたグリーンベルト運動だろう。同運動は、女性たちを中心に植林活動を全国へ広げ、森林の回復、水源の保全、そして地域住民の生活改善とエンパワーメントを実現してきた。 この草の根運動を主導した環境活動家ワンガリ・マータイ(Wangari Maathai)は、その功績によって2004年にノーベル平和賞を受賞。 政府や企業に依存せず、地域の人びとが自律的に森林資源を守り、活用してきたことこそ、活動が50年近く続いてきた要因となっている。
こうした“一人ひとりの行動が変えていく未来”は、きれいごとや建前ではなく、本質的な解決策を模索しながら確かな実践を積み重ねていくことでしか生まれ得ない。ワンガリ・マータイが「MOTTAINAI」を世界共通語として広めたように、人間の良心を言霊として宿した「OKAGESAMA」も世界共通語となる未来へ向けて、コーヒーという切り口で問題に向き合うShapers=将来世代はどんなアプローチを見せてくれるのか、今後の展開に期待したい。