コーヒーが介する真の友情。顔が見えれば意識も変わる

ルワンダ南西部・キブ湖の近くに拠点を置く家族経営のガシャルコーヒー。創業は1976年。2000戸以上の農家と取引がある同社は、2つのウォッシングステーションを保有し、ヨーロッパや北米、オーストラリアなどにコーヒーを輸出している。
大学を卒業した2016年、同社の一員として加わったのが、創業者・セレスティンの息子(9人きょうだいの四男)であるバレンティン・キメニだ。かねてより価格変動に翻弄されるコーヒービジネスの脆弱性を問題視していた彼は、スペシャルティコーヒーで付加価値を生み出し、国際市場で持続可能な関係性を築く必要性を感じていたのである。

その後、地道な顧客開拓が実り、2019年には輸出を開始。初年度から欧州市場を中心に出荷を伸ばし、ナチュラルやハニー、実験ロットなどの開発も進めている。バレンティンがマネージングディレクターとして、品質管理や顧客との関係強化を主導してきた甲斐あって、2024年にはスペシャルティコーヒーの輸出量は約15コンテナにまで増加。そんな彼が語る、コーヒービジネスの魅力とは?

いわば大手の下請けだった
シングルマザーに育てられたセレスティンが、首都キガリの家庭で家事手伝いとして、住み込みで働き始めたのは14歳のときだ。そこで3年間働いた彼は「養子にしたい」という雇い主からの申し出を断り、貯金をすべてはたいて故郷の村に農地を購入。380本のコーヒーの木を植え、栽培を始めた。1978年にはコーヒーチェリーを農家から買い取り、仲買人等に売る商いを開始。その後は、手回し式脱果肉機を配備し、複数の集荷拠点を築いて事業を拡大した。
そんな家庭で育ったヴァレンティンにとって、物心がついた頃からコーヒーの仕事を手伝うのは当たり前だった。中高生時代から、コーヒーの国際価格の激しい変動に頭を悩ませる両親の姿を見ていたこともあり、いずれ家業をアップデートするために大学では農業経営と農村開発を学んだ。

当時、ガシャルでは農家から買い取ったコーヒーの大部分を国内の大手輸出業者に販売していた。だが、十分な利益を確保できず、資金繰りに苦しむ時期が続いた末、2006年に新設したウォッシングステーションを2012年には同社に売却せざるを得なくなった。今のビジネスモデルでは事業活動を存続できないと痛感したことは、同社を国際市場へと駆り立てる大きなインセンティブとなった。
ガシャルで働き始めたヴァレンティンは、自社の弱みをまざまざと実感する。大手の輸出入業者に招かれて、ロースターがウォッシングステーションを訪問した際、「あなたたちのコーヒーは素晴らしい」という言葉を口々にかけてくれた。にもかかわらず、彼らにコーヒーを売るためには大手輸出業者に頼るしかない。おまけに彼らは「ガシャル」という名を隠し、自社ブランドとして販売する。永遠に下請け的な立場から抜け出すことができないのだ。

純度の高い人間関係
独立した取引を実現すべく、ヴァレンティンはメールやSNSを使って、顧客やエンドユーザーと直接連絡を取り始めた。一番の目的は、フィードバックを得ることだ。顧客の意見を反映して品質を改善したり、顧客の要望に応じた精製方法を試すこともできる。そうして関係性が密になればなるほど、リピーターになる可能性も高まっていく。

「1年目は7種類のコーヒーを輸出した際、どれもポジティブな反応をもらえたことで自信を得られました。もちろんネガティブな意見もありますが、それこそ大歓迎。むしろ良いことしか言われないと進化は止まってしまう。どんな声でも拾って活かすことが大切なんです。
というのも、私は長期的なパートナーシップを重視しているからです。たとえ1年目から3コンテナ買ってくれる顧客でも、取引に安定性がなければ望ましい相手とは言えません。ようやく国際市場に出られたのに、1〜2年で終わる関係は求めていないんです。
だから最初は数袋程度の注文でも構わない。年を追うごとに購入量が増え、お互いに成長していく関係が理想です。子どもが親を忘れないのと同じで、一緒に成長したビジネスパートナーのことは忘れないでしょ?

コーヒービジネスの醍醐味の一つは、世界中に友人ができること。例えばWorld of Coffee(以下WOC)に参加するときは、開催国以外の国にも足を伸ばしてロースターへの挨拶回りをする。今ではヨーロッパの国のうち約8割とはつながりがありますよ。
今年のWOCには参加できなかったけれど、普段取引している友人たちから「会えなくて残念」「本当に寂しい」という趣旨のメッセージを15通以上もらったんです。「一緒に写真を撮って、君たちのコーヒーが大好きなお客さんに紹介したかった」と言ってくれる人もいた。本当に心が揺さぶられましたよね。こういう純度の高い人間関係を築けることが、コーヒーの魅力だと思います。
だから、私たちのウォッシングステーションを訪れてくれる人は誰でも大歓迎。ビジネス目的じゃなく観光目的でもOKです。自分の国に帰ってから私たちのコーヒーを買ってくれる可能性もありますしね」

新しい世界が意識を変える
もっとも、ガシャルが自由に飛び回れるのは、両親が40年かけて築いた事業基盤があってこそ。現に取引農家の90%以上は、家族ぐるみで長年付き合いのある地域の仲間たちだ。ヴァレンティンにとっては、かつて一緒に学校で勉強していた同級生の家族でもある。セレスタンは農家に代金を前払いしていたおかげで、彼らからの信頼も厚いのだ。
とはいえ、近年は国際相場の上昇やインフレを背景に、高い買取価格を提示する他社へ流れるケースもゼロではない。顧客に価格の引き上げを依頼せざるを得ず、安定的な取引が難しくなっている現実もある。収入が増えて生活水準が改善した農家もあるが、ヴァレンティンが描くビジョンに照らせば「達成度はまだ1割にも満たない」という。

「そもそも農家は自分たちのコーヒーを飲んだことがなかったですからね。私たちの地域では、コーヒーノキを1本も持っていない男は一人前じゃないという常識があり、昔からコーヒーを作ってきた歴史はあるものの、あくまで換金作物という位置づけだった。『コーヒーは弾丸を作るのに使われている』という噂がまことしやかに囁かれていたほどです。なので私は、月に1回くらい小さな集会を開いて、彼らと一緒にコーヒーを飲んで意識変革を促しています」
ヴァレンティンは、できるだけ農家が訪問者と交流する場をつくり出し、「この人があなたのコーヒーを買った人ですよ」などと紹介している。買い手、飲み手と実際に触れ合い、高く評価された経験は、仕事への意識を確実に変えるからだ。
「努力は報われると知り、農家のマインドや意識が変われば、意思疎通は格段にスムーズになります。たとえば『来年は90点を取れるコーヒーが欲しい』とリクエストすれば、快く応じてくれる。農家どうしが切磋琢磨して高め合えるように、今は自社開催のコンペを催す計画を立てているところです」

ガシャルでは、社会的な取り組みとして、2023年より地域の女性たちにヤギを贈るプロジェクトを実施している。一種のボーナスのような位置づけで、農家は「売ってはいけない。家畜として飼育する」という誓約書にサインする必要がある。さもなくば、すぐに売り払って日銭を得ようとするインセンティブが働くからだ。(そのヤギが子を産んだ場合は販売してもよい)
「ヤギの糞尿が有機肥料を生み、コーヒーのみならず、家庭菜園で育てる野菜やトウモロコシ、バナナなどの生産性を高めてくれます。今では1000頭以上のヤギが彼らの家で生活していますよ。
他にも農家の医療保険の費用を一部負担する取り組みも実施していますが、いずれも彼らが貧困から抜け出し、精神的にも経済的にも成長することが目的です。まだまだ道半ばですが、いつか必ずよりよくなると信じて、新しいサポートの方法を模索し続けています」