量と質は両立しうる。情熱と仕組みが織りなす至高のコーヒー

コーヒー生産においては、一つの工程を疎かにすることが品質を大きく損なうリスクを生む。だからこそ、栽培から精製、乾燥、カッピング、輸出に至るまでを自社で一貫して行う「垂直統合型モデル」は、品質を担保するうえで有効な手段となるが、莫大な投資に加え、確かなビジネスセンスと高度な専門性を備えた人材が不可欠であり、容易に導入できるものではない。

中米・ニカラグアにおいて、このビジネスモデルで成功を収めているのがサビオコーヒーだ。2004年、医師のエンリケ・フェルフィーニョがシルヴィア・ノロリとともに創業し、200haの農園を取得したところから始まった同社は現在、450haにまで農園を拡大(うち約50%は自然保護区)。年間45〜55コンテナを出荷し、常勤スタッフは約150人を要するまでに成長した。プレミアムラインの「アルケミア」「ネクター」「ボナンザ」を筆頭に、高品質なコーヒーを世界へと送り出している。

同社の強みは、単なる一貫生産にとどまらない。完璧な一杯を生み出すために設計された12段階の品質管理プロセスをはじめ、顧客の年間スケジュールに合わせたジャストインタイムの出荷体制や、ニーズに応じたロットの事前予約といった柔軟なサービスを提供することで、顧客からの支持を獲得している。
そんなサビオコーヒーで、2018年から品質管理マネージャーを務めているのがズザナ・チェルナーだ。チェコで生まれ育ち、17歳のときからコーヒーの世界に身を浸すこと約18年。「これまで他の仕事をやろうと考えたことすらない」と話す彼女に、サビオコーヒーの魅力を聞いた。

品質はつくるもの
サビオコーヒーの農園は、ニカラグア国内でも有数の生産地であるマタガルパに位置している。標高は1,200〜1,400m。山岳地帯特有の昼夜の寒暖により、チェリーの成熟はゆっくり進み、複雑なフレーバーが形成されやすい。また、雨季と乾季が明確に分かれているため、収穫や乾燥のタイミングを計画的にコントロールしやすいのも特徴だ。

「私たちの生産するコーヒーは99%がスペシャルティです。コーヒー栽培に適したエリアで、適した品種を選び、客観的な指標に基づいたプロセスを行っているので、むしろスペシャルティじゃないコーヒーを作る方が難しいくらいです。私が考える素晴らしいコーヒーの条件は、クリーンでバランスが取れていて、毎年安定した品質が維持されていること。年ごとに多少のニュアンスの違いはあっても、基本的なプロファイルは変わらないコーヒーづくりを目指しています」
この安定性、一貫性を支えているのが、農園からカッピングラボに至るまでの12段階の工程「SABIO 12」だ。たとえば、完熟したチェリーだけを収穫するのはもちろん、一部の商品ラインでは不要な発酵を防ぐため、早朝に収穫したチェリーのみを使用すること。pH / 温度 / Brix(糖度)といった指標を継続的にモニタリングし、期待する風味特性を引き出すこと。サイズ選別から密度選別、色選別、手選別と4工程を経て欠点豆を取り除くこと……等々、明確な意図を持って設計、構築されている。ズザナは言う。

「品質管理マネージャーの立場として、私が特に重要視しているのがカッピングです。もちろん、カッピングでコーヒーの品質を改善することはできませんが、その結果が、コーヒーを倉庫でどう保管するか、どこにどのタイミングで出荷するかといった判断に直結するので、正確じゃなきゃいけない。
ただ、それを強く実感できるのは、私がサプライチェーンの上流にいるからこそ。チェコのロースターで働いているときは、コーヒーがここまで多くの工程を経て出来上がっているとは知らなかったですから」

品質は上流で決まるもの
ズザナがコーヒーの世界に足を踏み入れたのは高校時代、17歳のときだ。当初は、放課後のアルバイトとして始めた仕事だったが、ほどなくして生活の中心を占めるようになる。大学には進学したが、在籍する意味を見出せなくなり中退。その後、チェコ国内の複数のロースターや輸出会社でバリスタや品質管理、ブランド&セールスマネージャーの経験を積んだのち、サビオコーヒーにたどり着いた。

「ロースターと農園では、品質に対して介入できる範囲が大きく異なります。仮に品質が期待する水準に達していなかった場合、ロースターにできるのは、別の生豆を仕入れるか、焙煎方法を変えることくらい。一方で、収穫から輸出まで、すべてのプロセスを自社で完結させているサビオでは、品種ごとに最適なプロセスやプロファイルを設計することで、品質改善に深く関われる。それこそが、私がニカラグアに移り住んだ最大の理由です。
幸いなのは、私たちの地域では気候変動の影響がまだ見られないこと。私がここで過ごしてきた7年間、収穫時期はほぼ同じで、発酵プロセスも変えていません。たとえ気温や降雨量といった外部環境が変わっても、同じ発酵プロセスを維持すれば、品質の一貫性を保つことができると考えています」

今でこそ、自社保有のドライミルで2本の生産ラインを稼働させ、13台の乾燥機(グアルディオラ)などを保有しているサビオだが、2014年までは外部の業者に脱殻や選別などの工程を委託し、国内市場に販売していた。自分たちの目の届く範囲で品質をコントロールできないことに歯がゆさを感じていたオーナーのエンリケは、品質を高い水準で安定させるべく、ドライミルの建設を決断。その後、サビオに加わったエンリケJrが消費国をまわって顧客を開拓し、2014年に輸出を始めた頃から、同社はより積極的な規模拡大を進めてきた。

「『会社は大きいほどいい』というのが、エンリケJrの考え方です。もちろん規模を拡大することでできることは増えますが、設備や人員を維持し、投資を回収するためには、それに見合った生産量を確保しなければなりません。
世の中には『品質を守るために規模を拡大しない』という考え方もありますが、それは仕組みによって解決できる問題だと思っています。実際、サビオではこの8年間で生産量が10コンテナから50コンテナまで増えたけれど、品質を維持できている。重要なのは、工程を確立することと、それが適切に実行されているかを継続的に確認、検証することだと思います。
私たちは積極的に機械化を進める一方で、年に3〜4回の農薬散布や施肥はすべて手作業で行っていたりと、マンパワーに頼っている部分も少なくありません。ただし、農薬や除草剤の使用は最小限に抑える方針なので、老木化したコーヒーノキを病害に強い品種などに植え替えているところです」

すでに基盤を確立したサビオコーヒーは、2024年、新たな試みとして「クロッププロジェクト」を立ち上げた。農園面積が1ha前後の小規模農家から、各地に設置した集荷場を通してウエットパーチメントを直接買い付けるというもので、より適正な価格での取引を実現している。
たとえば、トラックを所有していない農家は、収穫したチェリーを集荷場まで運べないため、近隣の仲介業者に安く買い叩かれてしまう。こうした構造が、彼らが貧困から抜け出せない一因になっている。その点、小規模農家がサビオに販売するインセンティブは大きいのだろう。2025年は900以上の農家がこのプロジェクトに参画し、約20コンテナ分のコーヒーが海を渡ったのだ(基本、地域ブレンドとして販売)。
「オフシーズンには、自社の農学者を農家のもとへ派遣し、剪定や栽培管理の技術支援を行ったり、植え替えを希望する農家に苗木を提供したりしています。この事業はセカンドライン的な位置づけですが、着実に成長しているので、今後の展開が楽しみです」

他の人生は想像できない
ズザナには、チェコのロースターで働いていた頃から、コーヒーの生産現場で働きたいという願望があった。その機会が訪れたのは、Coffee Embassy EUで働いていた2018年。コーヒーの生産プロセスを学びながら、生豆を買い付けるべく、同社が提携するニカラグアの農園へ3ヶ月間、派遣されたのだ。
「当時関わった農園はサビオコーヒーではなかったのですが、これこそ本当にやりたかった仕事だという確信を得られたので、帰国せず、そのままニカラグアに住み着いたんです」
滞在中、エンリケJrがニカラグア国内で経営するコーヒーショップを訪れたことがサビオコーヒーとの出会いだった。高品質なコーヒーはほぼすべて輸出される国で、チェコで飲んでいたようなコーヒーとめぐり逢えたことに感動を覚えた。折しも次の仕事を探していたズザナが、エンリケJrに「カッパーを探していませんか?」と声をかけたことを機に、サビオの一員になることが決まったのである。

「これまで他の仕事に見向きもしたことがなく、別の仕事をしている自分を想像することもできません。今でも毎朝、農園に行くのが楽しみですし、スランプや停滞期を経験したこともありません。あと20年この仕事を続けても、きっと飽きないでしょう。
なぜ情熱を持ち続けられるのか、自分でもよくわからないけれど、コーヒーの世界には終わりがないからかもしれません。新しい品種やプロセス、機械、ロースターが次々と現れるので、学びが尽きないんです。一方で、いろんな意味で消耗する仕事でもあるので、離れていく人が多いのも理解できますけどね。

あとは、環境に恵まれていることも主な理由のひとつだと思います。エンリケJrは、人としても経営者としても尊敬できる存在です。細かく管理するトップダウン型のマネジメントが一般的なニカラグアでは珍しく、彼はスタッフを尊重、信頼し、裁量を与えてくれるんです。各現場の責任者が情熱とオーナーシップを持って仕事にあたっていれば、その姿勢は自然と他のメンバーにも伝播していく。それが組織の好循環につながっていると思います。
誕生日やクリスマスなどの節目は、決まって皆で祝い合う習慣もあり、自分が受け入れられているという実感を得られます。もちろん給与水準の高さも理由の一つかもしれませんが、ドライミル、農園、ウェットミルの各マネージャーがそれぞれ14年以上サビオで働き続けているという事実が、環境のよさを物語っていると思います」