Three Dots Coffee Bix / Yar Sin / Kenny Wong

Bix / Yar Sin / Kenny Wongビックス / ヤシン / ケニー・ウォン

Three Dots Coffeeスリードッツコーヒー

未成熟だから伸びしろは大きい。東南アジアのコーヒーを世界レベルに

どの分野にも共通することかもしれないが、知名度やネームバリューは、必ずしも品質や実力と比例するわけではない。コーヒーも例外ではなく、農園名や生産国、ロースターの知名度やネームバリューは、私たちの味覚に少なからず影響を与えている。

そうしたなかで、知名度が低く、産業基盤も整っていないために、本来のポテンシャルを発揮できていない東南アジアのコーヒーに目をつけたのが、タイ・バンコクを拠点とするThree Dots Coffeeだ。現時点では、単一農園やマイクロロットとしての流通が限定的なミャンマー、良質なコーヒーはあっても、大半は国内市場向けのタイ、アラビカ種を生産してきた歴史が浅いフィリピンの3ヵ国にフォーカス。

ベトナムやインドネシアを除く多くの東南アジア諸国では、トレーダーと生産者が明確に分業しているケースが大半を占める中、Three Dots Coffeeはコーヒーの生産現場に深く入り込み、精製や農家への技術指導まで手がける──つまり「自社が成長すれば、農家も成長する」ビジネスモデルで、東南アジアを世界トップレベルに引き上げようと試みている。

左からヤシン、ビックス、ケニー

2025年に同社を創業したのは、以前から交流のあった3人──大学で医学を学び、Biome Coffeeを通じてミャンマーの生産者との幅広いネットワークを築いてきたヤシン。約15年にわたり、アジア5ヵ国で1000店舗以上を展開するティードリンク系チェーンのタイ市場を担当してきたケニー。そして10年以上、タイの大手飲料メーカーで国際マーケティングに携わった経験を持つビックスだ。

それぞれ異なるバックグラウンドと強みを持つ3人が、Three Dots Coffeeの事業を通して実現したいビジョンとは──?

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農家との関係づくりは生存戦略

コーヒーの中間業者がどこまで生産現場にコミットするのかは、彼らの本気度を測る一つの指標とも言える。単に安く買って高く売り、その差額で利益を得るブローカー的な立ち位置をとるのか、Three Dots Coffeeのように精製工程に踏み込み、農家とともに成長していく立ち位置をとるのか。どちらにもメリットとデメリットはあるが、リスクを背負う覚悟がなければ、後者を選べないことは間違いない。

現実として、日々の暮らしに追われる生産者にとっては、長期的な利益よりも目の前の現金収入のほうが魅力的に映るものだ。誰がコーヒーチェリーを買うのかは、彼らの関心事ではない。タイ、ミャンマー、ラオスでチェリーの買取価格が高騰している今、農家が得体のしれないバイヤーにチェリーを販売するケースも珍しくない。

その流れを食い止めるべく、Three Dots Coffeeが導入しているのが、農家への代金前払いシステムだ。収穫前にはデポジットを、収穫期間中は市場価格に即した金額を支払い、全量買い取りを保証している。さらに技術指導までおこなうのは、チェリーの品質の低さゆえに損失を被るリスクを避けるための自己防衛手段でもある。

ビックス「適切な方法でコーヒーを栽培、収穫すれば、収量も品質も向上し、収入の増加にもつながる。その構造を、農家の人たちに理解してもらい、手間をかける価値を感じてもらう必要があります。

特にタイでは、1960〜70年代にかけて、政府や王室により、ケシ(麻薬の原料)農家に代替作物としてのコーヒー栽培が奨励された結果、耐病性、生産性にすぐれたカティモール種の栽培が広く普及していった歴史があります。ただそれはもう今の市場ニーズには合わなくなっているので、SLやゲイシャのような付加価値の高い品種に植え替える決断をしてもらわなきゃいけない。そのためにもも、農家とよい関係を築くことは欠かせません」

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「科学的なアプローチ」という優位性

Three Dots Coffeeがユニークなマイクロロットや高品質なスペシャルティを生み出している背景には、科学的なアプローチに基づいた専門性がある。Qプロセッサー レベル3の資格を取得中のヤシンと、Qプロセッサー レベル2の資格を取得したケニーは、「なぜその味になるのか」「糖がどう分解されているのか」を明確に説明できる状態を目指しつつ、それぞれのコーヒーの個性を最大限活かす精製方法の開発・運用に取り組んでいる。

ケニー「僕は学生時代、材料工学を専攻していましたが、物事に対して科学的にアプローチするのが好きなんです。最近はコーヒーにフレーバーを与えるために、ショートカット的なプロセスが用いられるケースも増えていますが、僕はプロセスをどう組み立て、成分をどうコントロールするのか、というところから考えたいタイプ。仮定や思い込みで済ませたくないし、客観的事実になるように検証したい。その点もヤシンと馬が合ったというか、彼となら退屈せず、オタク的にずっと掘り下げ続けられるなと思ったんです」

ヤシンは今、Biome CoffeeとThree Dots Coffeeを運営する傍ら、タイの大学院で食品科学について研究している。タイ北部のチェンライを中心に、国内のコーヒー産業の振興を担ってきた多くの研究者とのネットワークは、今後大きな武器となりうる。

ヤシン「どんな菌や酵母が、どの段階で、どれくらい働いているのか。今はまだ見えていないところが多く、仮説レベルにとどまっています。将来的には、発酵の過程を正確に追跡できる仕組みをつくりたいですね。

大学の医学部に在籍していた頃、プレゼンや質疑応答の場で、憶測で話すことが許されなかった経験が僕のベースになっているのかもしれません。インターネットで得た情報をそのまま使うことは認められず、必ず公表された論文をソースにする必要があった。そういう訓練をしたことが、今、コーヒーの精製を突き詰めるうえで生きていると感じています」

そういった科学的なアプローチは、品質の一貫性を保つうえでも役立っている。毎年、気候や環境条件が変わることを前提に、その年ごとに有効な指標を見つけるのだ。精製によってスペシャルティ寄りのコーヒーを増やして単価を上げることも、農家をつなぎとめる一つの手段になっている。

ケニー「といっても、新しい生産ラインを作るときも実験的なプロセスを試すときも、単に好奇心や探究心だけで動くことはしません。いつも『市場はどこに向かっているのか』『何が求められているのか』という視点も交えて話し合ったうえで、開発を進めています。研究者肌のヤシン、国際ビジネスの経験が豊富なビックス、小売の最前線で消費者の動向を肌で感じてきた自分。この3人が集えば、事業を推進していくために必要なスキルセットがうまい具合にそろうんです」

ヤシン「品種や精製の本流を重視するクラシックなアプローチと、インフュージョンやイーストを使った発酵のように、トレンドに合わせるアプローチ。その二軸で精製をしているのも、差別化を求める多くのロースタリーやカフェの手助けができればと思っているからです」

ケニー「同じインフュージョンでも、どんなフレーバーを選び、何とどう組み合わせるのか、どんなストーリーを持たせるか次第で、新しいキャラクターを生み出すことができる。私たちも、各国の固有のフレーバープロファイルを活かしながら、独自性を打ち出していきたいと思っています」

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私益を超えた成長を目指して

ヤシンとケニーが知り合ったのは2024年。ヤシンがミャンマーのコーヒーを東南アジア市場に広めるべく、コーヒーイベントに出展した際のことだ。当時ケニーは、15年ほど関わってきた茶業界から一歩踏み出し、コーヒーの世界で新たなスキルセットを手に入れるべく、SCAの抽出・焙煎コースを受講したタイミングだった。

ケニー「タイ国内だけで100店舗以上にまでチェーン展開を進めたのですが、次第に過当競争に陥り、社会に価値を提供できている実感が薄れ、最後にはほとんど燃え尽きていたんです。それに店舗運営の立場では、トレーダーから原料を仕入れるだけで、味や品質をコントロールできないことにもどかしさも感じていました。

その点、コーヒーなら生産プロセスから関われるし、自分が関わる意義を深く感じられる。コーヒー生産者の暮らしぶりや農業技術において、東南アジアはブラジルやコロンビアに比べて大きく遅れを取っている。タイの村には、電気や水道が通っていない場所も多く、家計を助けるために学校に行かず、働いている子どもたちもたくさんいます。もしコーヒーだけで十分な収入を得られるようになれば生活水準が上がり、さらに良いコーヒーをつくりだせる……という好循環を生み出せる希望があるんです」

2025年に創業したばかりのThree Dots Coffeeだが、描くビジョンは壮大だ。東南アジアを世界屈指のコーヒー生産地へと押し上げ、ブラジルやコロンビアのように確立したポジションを築くべく、着実に足場を固めている。来年にはラオスやインドネシアでも生産を始める予定で、最終的には「東南アジア各地にパートナーとなる精製所を持つこと」を目標としている。

ヤシン「コーヒーのイベントや競技会、オークションなどに足を運んだときに目にしたのは、ありとあらゆる国のコーヒーを人々が心から楽しんでいる姿や、自国のコーヒーについて誇らしげに語る生産者の姿です。それらを見ていると、いつかミャンマーも同じような存在にしたい、ミャンマーのコーヒーがメニューに並び、人々が信頼して注文するような未来をつくりたい、という思いが自然と湧いてきたんです。

ミャンマーに限らず、タイやフィリピンのコーヒー生産者たちも、品質を高めるために真剣に取り組んでいます。タイでCOEが開催されるようになった2023年以来、コーヒーの品質は明らかに向上していますし、フィリピンでも、土壌の質やチェリーの品質には目を見張るものがありました」

ヤシンが初めてフィリピンのアポ山を訪れたとき、生産者が取り組んでいる精製方法はナチュラル一択だった。一般的に、乾燥した気候や標高の高さなどがナチュラルに適した環境条件とされているが、同地域の日照時間は短く、乾燥に40〜60日(通常の倍程度)要していたのだ

ヤシン「そこでハニーやウォッシュドを試してみたところ、『コロンビアやグアテマラ、パナマのコーヒーみたいだ』という驚きが広がり、フィリピンコーヒーのフレーバーマッピングをつくろうとする動きが生まれました。今では政府関係者や農業省までコーヒーの振興に関わるなど、政官民一体となってコーヒーの品質を高めていこうとする動きが生まれています」

Three Dots Coffeeは、自分たちだけが利益を得るのではなく、社会にも還元し、皆で発展していく形を目指している。手本としているのは、国内で高く評価されている大手飲料メーカーの取り組みだ。同社は派手な広告宣伝こそしないが、災害時には真っ先に支援活動にあたったり、特にスポーツの分野で優れた才能を持つ子どもたちのスポンサーとなり、オリンピックのメダリストになれるようサポートするなど、社会貢献を惜しまない大企業として知られている。

ビックス「仕事をする中で、ビジネスで得た利益は必ず社会に還元する、自社のためだけでなくコミュニティや社会を良くしたいという感覚が自然と備わっていったんです。

東南アジアのコーヒー産業は未成熟なぶん、成長の余地が大きく、有名な産地に引けを取らないレベルにまで進化しうる。その可能性が花開くところを当事者として見届けたいんです」

Yar Sin / Kenny Wong / Bix

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