自然なくしてコーヒーはない。いつも謙虚にベストを尽くす

高温や乾燥に弱く、森や木々に囲まれた環境と相性が良いコーヒーは、環境と調和してこそ持続可能な生産、品質向上が実現できる。特にスペシャルティコーヒーでは、環境を守る方が利益を生みやすいこともあり、サステナビリティへの取り組みは他の作物より進んでいる。実際、ブラジルの森林法では、コーヒー農園のうち一定割合(多くの地域で20%)を自然林として保全することが義務付けられている。
そんな中で環境意識の高い取り組みを続け、レインフォレスト・アライアンスや4Cなど6つの認証を取得しているのが、ブラジルはパトロシーニョにあるセメンチ農園だ。なかでも特徴的なのが、エコロジカル・コリドー=生態回廊の存在である。農園全体の管理と財務を担当しているジョゼはこう説明する。

「私たちの農園には各セクションに保全区画があり、それぞれが回廊のようにつながっています。保全区画の森林はシェードや風よけの役割を果たし、多様な生物は害虫の天敵として働くことでコーヒーを守る。一方、栽培区画から出る落ち葉や残渣が土壌に還元され、保全区画の生態系を支える。そんな風に両者は相互に補完し合っているんです」
その他にも、太陽光発電により電力を自給したり、できる限り自家製の有機堆肥や生物資材を使用したりと、サステナビリティを確保するための取り組みは多岐にわたる。

「そもそも私たちの仕事は、自然に依存しています。太陽や雨、風がなければ生きていけません。つまり環境を守ることは、自分たちの仕事を守るということ。人や環境を尊重しながら、生産性と品質を高めて収益を得ること、自分たちや従業員が家族を養えるようにすることが私たちの理想です。そうすれば自然が必要なものを返してくれるからです。
COEのようなコンテストにも積極的に出場していますが、勝てなくても構いません。もちろん勝つに越したことはありませんが、大切なのは日々ベストを尽くすこと、結果に一喜一憂しないこと。その積み重ねはいずれ、結果に表れるからです」

良しも悪しも受け入れて
ジョゼの母が祖父から農園を引き継いだのは1994年のときだ。父は医師として働いていたため、母がいつも農園を切り盛りしていた。幼い頃、母が農園を世話し、収穫に立ち会う姿を目にしてきたジョゼは、いずれ自分が農園を継ぐという前提を疑ったことがない。
大学では経営学を専攻し、ベルギーへの1年間の留学も経験。卒業後は、大都市ベロオリゾンテにある飲料系大企業で3年間働いたが、どれも将来を見据えての選択だった。2016年、25歳のとき、母親から「戻ってきて農園を手伝ってほしい」と頼まれたジョゼは、ためらうことなく農園で働き始めた。

「今の時代、コーヒー農園も企業として見なす必要がある、従業員のマネジメント、資金繰りや銀行との付き合いなど多くの要素が関わってくると考えていたからです。現に今、大学や前職で得た知識や経験を農園経営で活かすことができています」
せっかく広い土地があるのだから活用しなければもったいない。生産量を増やせば、市場も広げられるーー。そう考えるジョゼが農園で働くようになって以来、生産量も品質も飛躍的に向上した。2016年当時、70ha(農地全体は600ha)だったコーヒー農地は250haにまで広がり、生産量はおよそ2倍に増加。コモディティ100%だったコーヒーも、今では82点以上のスペシャルティコーヒーが約80%を占めている。

「ただ、今年は全体の約10%しかスペシャルティとして販売できていないので、今後は直接的な取引をもっと増やしていきたいと思っています。小さなカフェに直接販売すると必ずポジティブなフィードバックをもらえるのですが、それが私たちの励みになっている。良い仕事をしてすべての顧客や消費者に良質なコーヒーを届けよう、という原点に立ち返ることができるんです」

「この仕事が大好きだ」と語るジョゼだが、過去9年の間には何度か試練に直面した。代表的なのが、2021年に見舞われた霜害だ。夜間の気温が−2℃まで下がる異常気象により、生産量の90%を失ったのだ。開けた土地ゆえ被害は甚大だった。ジョゼは内部留保を取り崩しつつ銀行の融資に頼り、運転資金を賄った。
「そこから得た教訓は、何があっても粘り強く、前進し続けること。天候は私たちがコントロールできるものじゃない。結局のところ私たちは、そういう現実を受け入れて、うまく付き合っていくしかない。神を信じ、よりよい未来が待っていることを願いながら、ベストを尽くすしかないんです」