Indonesia Harvest Update 2024/25
2025.06.20

Indonesia Harvest Update 2024/25

インドネシアは世界有数のコーヒー生産国でありながら、TYPICAとして現地を訪れたのは今年が初めてだった。インドネシア産コーヒーは、幅広い品質と風味で、世界中のバイヤーやロースターを魅了し、近年では国際大会でもその存在感を強めている。島ごとに異なるテロワール、多様な生産スタイル、そして複雑な流通事情——さまざまな切り口で語られるこの国を訪れ、実際に生産現場を見ることで、深い学びと確信を得た。産地訪問をして本当に良かったと思える経験となった。

今回訪問したのは、Java Frinsa EstateとCATURの2つのキュレーター。Java Frinsa Estateでは、ジャワ島・バンドゥン近郊にある農園を、CATURでは、パートナーであるバリ島のプロセサー・カラナを訪れた。

インドネシアという生産国

インドネシアは、スマトラ、ジャワ、スラウェシ、バリなど、多様な島々にまたがる世界有数のコーヒー生産国である。アラビカ種とロブスタ種の両方が、島ごとの気候や風土に応じて栽培されており、それぞれ異なるフレーバープロファイルを持つ。

国内のコーヒー農園のおよそ9割は、家族経営の小規模農家が担っている。彼らは伝統的な栽培方法や、ウェットハルなど地域独自の精製技術を受け継ぎながら、近年では品質向上やトレーサビリティ、サステナビリティへの意識も高まっている。こうした背景から、インドネシアのスペシャルティコーヒーは今後さらに発展する可能性を秘めている。

収穫状況と品質

2025年のインドネシア全体の生産量は、前年と比較して10〜20%の減少が見込まれている。主な原因は天候不順にある。例年であれば乾季にあたる5〜7月は晴天が続くが、今年は曇天や降雨の日が多く、乾燥工程に支障をきたしている。ナチュラルプロセスでは特に影響が大きく、気候変動の影響が生産現場に顕著に表れていた。

生産量の減少が懸念される一方で、生産者は品質の向上に努めている。近年では、品質の一貫性を保つため、混合品種ではなく単一品種のロットを積極的に生産する動きも見られる。

各地の農園が共通して課題として挙げていたのが、ネマトーダ(線虫)の被害である。これは土壌に潜み、根にコブを形成することで栄養吸収を阻害し、最終的には木にチェリーが実らなくなってしまう。そのため、害虫に対する耐性が弱いSigararutangなどの品種は減産傾向にあり、代わってリベリカ種の遺伝子を持つLini Sなど、耐性の強い品種の導入と強化が進められている。

価格構造

インドネシアのコーヒー価格は、国際相場(Cマーケット)ではなく、国内市場価格を基準に決定されている。この国内価格には、大手企業による先物契約が大きな影響を及ぼしている。今年は特に、昨今の相場高を背景に、他産地の供給不足を懸念した企業が、特にマンデリンのような人気銘柄を高値で大量に契約することで、市場全体の価格が押し上げられている。その結果、プロセサーやエクスポーターは、規模を問わず割高な価格でチェリーを購入せざるを得ない状況にある。

社会への還元と農業の再生

FrinsaのFikriによると、近年、都市部から故郷に戻り、農業に従事する若者が増えているという。都市生活よりも、自然のリズムに寄り添う暮らしや家族との時間に価値を見出す動きが広がっており、コーヒー農業が地域社会再生の中心的な役割を担いつつある。

たとえば西ジャワでは、森林保全を目的とした政府の土地政策により、違法な野菜栽培に代わって、法的に認可されたコーヒー栽培が推奨されている。コーヒーの根は土壌を固定し、土砂災害のリスクを軽減することから、野菜からコーヒーへの転換は、環境保護の観点でも高く評価されている。

Frinsaの農園も、こうした政策のもと、政府から借り受けた土地で運営されており、ファームゲートプライスの30%を政府に還元している。森林保全が目的のため、木の伐採は禁止されており、倒木の撤去すら認められていない。倒れた木はその場で自然に腐敗・分解されるのを待つしかなく、完全にコンポスト化するまでにはおよそ4年を要する。また、毎年数千本の樹木を植える義務も課されている。

こうしたインドネシア政府の徹底した政策は賞賛に値するものの、コーヒー生産においてはシェードツリーを自由に管理できないため日照の調整が難しく、チェリーの熟度にばらつきが出る。その分、生産にはより多くの工数がかかる。ただ、Frinsaは農園経営の目的をサステナビリティの向上に置いており、こうした政策はむしろ彼らの事業目的と本質的に一致している。Frinsaはその理念を、自らの実践によってさらに発展させているのだ。

さらにFrinsaは、地域の農家に対して、自社のナーサリーで育てた苗を有償で提供し、農園管理や生産工程での雇用も生み出している。こうした取り組みにより、農業を核としたエコシステムの構築が進んでいる。また、売上の10%を地域のインフラ整備や福祉活動に寄付する農園もあり、その社会的貢献が評価され、中央銀行から支援を受けるケースも出てきている。

さらに、インドネシアならではの特徴として、イスラム教の「ザカート(喜捨)」の教えに基づき、収益の2.5%を苗木や肥料の形で地域に還元する仕組みも存在する。これは単なる寄付ではなく、象徴的な価格で苗を提供することで、受け取る側に育成への責任感を持たせる工夫がなされている。

このように、農業が単なる生業にとどまらず、地域社会の基盤として中心的な役割を果たしている点は、非常に印象的だった。

まとめ

インドネシア滞在中、コーヒー生産国で初めての開催となった「ワールド オブ コーヒー ジャカルタ」に参加した。会場には生産者やロースターが集結し、大いに盛り上がりを見せていた。印象的だったのは、プロデューサービレッジの多くをインドネシアの生産者が占めていたこと、そして参加者のほとんどがインドネシア国内の人々だったという点だ。ローカルの情熱と熱気に満ちたこのイベントは、国内コーヒー産業の高まりを象徴していた。

TYPICAにとって今回の旅は、これまで触れてこなかった地域や島々の、個性豊かなコーヒーとの出会いを通じて、インドネシアという生産国の新たな可能性を見出す機会となった。そこで得られたのは、コーヒーに関する知識だけではない。インドネシアの人々の価値観には、これからの理想的な社会を象徴するような調和的な世界観と母性があった。この感覚を、コーヒーを通じてロースター、そしてコーヒーラバーへと届けていきたい。

舞台裏

「ジャカルタの夜カフェ」

インドネシアの多くのカフェは深夜12時頃まで営業しており、閉店間際までほぼ満席の状態が続くという。宗教上の理由からお酒を嗜む文化があまり根づいておらず、その代わりにカフェが夜の社交場として機能している。蒸し暑い夜、外のベンチでタバコを吸いながら、Kopi Susu(ミルクコーヒー)を片手に延々と語り合う人々の姿は、終わらない夏休みのようで、どこか懐かしさを感じさせた。

「バリのお供え物」

飛行機で約2時間しか離れていないバリ島とジャカルタだが、地域によってまったく異なる文化が息づいている。バリのウォッシングステーションで目に留まったのは、椰子の葉で作られたお皿に盛られた花びら。いくつかの花や少しのお米が丁寧に盛られている。これはチャナン(Canang Sari)というお供え物だという。バリではヒンドゥー教が信仰されており、その考えの中に「対極にある二つをバランスすることを大切にする」というものがある。穢れたもの、ネガティブなものを忌み嫌うのではなく、それすらも大切に扱い、清きものとバランスさせるのである。チャナンは毎朝、女性の手で手作りされ、水場などの穢れた場所と神棚などの清らかな場所の両方に置かれる。ウォッシングステーションでは、脱殻機の角にそっと置かれていた。

「バンドゥンのごはん」

生産地ではさまざまな地元の食事をいただくが、Frinsaでいただいた食事は、間違いなくトップクラスの味だった。バリ日程の途中から胃腸の調子を崩していた私に、フィクリの奥様が用意してくれたお粥、厚揚げ、ゆで卵が、初めてのバンドゥンごはんだったが、その優しい味に涙が出そうになった。その後、ありがたいことにたびたび食事をいただいたのだが、総じて私はバンドゥンごはんが大好きになった。レモングラスやミカンの葉、ジンジャーがたっぷり入った牛すじのスープは、雨で少し冷えた身体を温めてくれたし、テンペの揚げ物(厚揚げや練り物に似ている)は食べ応えがあった。湯葉をクリスピーに調理し、蒸し野菜と合わせたおかずが、私のベストだった。バンドゥンを訪れたら、ぜひローカルの食事を楽しんでください。