OKAGESAMA COFFEE EXPO 2025 〜一杯のコーヒーから育む、おかげさまの森〜を終えて
2025.11.01

OKAGESAMA COFFEE EXPO 2025 〜一杯のコーヒーから育む、おかげさまの森〜を終えて

2025年9月28、29日の両日、TYPICAは大阪・関西万博のWASSEを舞台に「OKAGESAMA COFFEE EXPO 2025〜一杯のコーヒーから育む、おかげさまの森〜」を開催した。

会場内のロースターブースでは、来場者がコーヒーの背景や個性を感じられるよう、韓国、台湾を含むアジアのロースター約40軒が出店する「Rostaer Forest」が催され、終日約150種類のコーヒーを提供した。

と同時にステージブースでは、TYPICA GUIDE Final RoundやOKAGESAMA Forest Producers presentation、OKAGESAMA forumなどさまざまなイベントが行われ、コーヒー生産者、ロースター、コーヒーラバーが、グローバルなコミュニティとして、ともに未来を育んでいく場が体現された。

このEXPOは「従来型のグローバルビジネスではなく民間発の国際的な公共事業」として、「一部の権力者や資本家に忠誠を尽くすことで隷従する近代化以降のいきすぎた金融資本主義や貨幣経済の枠組みを超えて、一人ひとりが自らの人生の創業者として、人間生活社会の経営者として立ち上がり、公共幸福のための自由経済、そしてOKAGESAMAコミュニティを全世界で育み合う」というTYPICAの理念を体現した旗艦イベントでもある。

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TYPICA CEO・後藤将

森づくりの真髄は“生態系”づくり

「From cup to OKAGESAMA Forest 一杯のコーヒーが育む、おかげさまの森」をテーマに掲げた2日間のイベントの核となるのが、「おかげさまの森構想」のグローバルローンチだ。

生産者とロースター、コーヒーラバー、つまりコーヒーを愛するすべての人々──国籍も、人種も、価値観も、宗教も、世代も、文化も異なる人々──が、地球一周に広がる森をともに育み合うことで、永続的で発展的なコーヒー文化をつくり、その象徴としての森を将来世代へとつなぐ、というのが事業の骨子である。

※ コーヒーの木に陰をつくるシェードツリーを植えることで、コーヒー生産において「サステナビリティ」と「品質向上」の両立が可能となる。直射日光に当たる場合よりも、チェリーがゆっくり熟すため甘味、酸味のバランスが高まり、有機物や土壌微生物の多様性がコーヒーにユニークな風味を与える、といった作用が期待できる。

つまり「おかげさまの森」構想は、単なる植樹活動ではない。森を育てることは、多様な植物や生物が共生する地域の生態系を守り、雇用を創出し、地域全体が将来世代にわたって永続的に発展していく基盤となる。目指すところは、コーヒー、文化、コミュニティが共に繁栄する“生態系”——いわば本当の意味でのエコシステムづくりなのだ。

少林窟道場の第五世道場主・井上希道老師

開催2日目となる29日、少林窟道場の第五世道場主・井上希道老師による法話「禅とおかげさまの心」により聴衆の心が鎮まった中で、TYPICA CEOの後藤将はグローバルローンチ宣言にて志を力強く語った。

「生産者一人ひとりの農園がコーヒーの森として育まれた結果、2035年にはコーヒーベルトを一周する「おかげさまの森」として発展する。100年後、1000年後の将来世代にまで、あらゆる物事が自分以外の全ての存在とともに成り立つ「和の心」と「感謝の意志」、つまりおかげさまの共感と共働の象徴としての森が永続的発展的に繋がっていく。そんな未来をつくっていきたい」

レオン・クリスティアナキス(Acacia Hills)

その後、はじまりの祝祭として、タンザニア、エチオピア、インドネシア、ボリビアからはるばる来日した5名(1名のみオンライン)のコーヒー生産者および参画企業がそれぞれのビジョンや取り組みをプレゼン。生産者には、参加者から「おいしいコーヒーを届けてくれてありがとう!」「コーヒーが50年後も飲めるようによろしくお願いします!!」「自然相手のお仕事、お疲れ様です」「コーヒーは私の生活に欠かせない飲み物なので生産者の方には感謝の念が尽きません」など、約200件の応援メッセージが寄せられた。

ビニヤム・アクリル(Gujoo Trading)

来場者からもっとも共感を集めた生産者に贈られる「2025 森づくりパートナー大賞」を受賞したエチオピアGujoo Tradingのビニヤム・アクリルは、「2035年までに、コーヒー農園と森が共に成長し、人と自然の両方を支え合う『グジョーの森』をつくる」というビジョンと、そこに至る詳細なロードマップを語り、「私たちは感謝とサステナビリティという遺産を未来の世代のために植えている」と活動の本質を強調した。

オンラインでプレゼンしたナディーン・ラッシュ(Primavera Coffee)

なお当イベントは、来場者がコーヒーを購入することが森づくりにつながる仕組みで運用されており、今回だけで合計4,000本、40ha分(推計)のシェードツリーが植えられる見込みだ。

左からビニヤム、レオン、フィクリ・ハキム(Java Frinsa Estate)、フアン・ボヤン(Nayra Qata)

この取り組みは先述した「コーヒー、文化、コミュニティが共に繁栄する“生態系”づくり」を促進するだけでなく、①バナナやカシューナッツなどを植えることによる新たな収入源の確保、②木陰が生まれることによる労働環境の改善、③植樹によるカーボンニュートラルの推進、④将来世代への、森を守る文化の伝承と啓蒙等々、多面的な相乗効果が期待される。10年後にはきっと、「おかげさまの心」を持った人々が自律的に森を育み、発展させていく光景が、各生産地で見られるだろう。

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OKAGESAMA Forest Shapersのメンバー

社会問題は他人事ではない

共感を種に、一人ひとりが草の根的に変革を生み出していくこの「おかげさまの森」構想には、全国から応募した中高生も参画する。サステナビリティへの関心や動機を基準に選ばれた中高生15名が「OKAGESAMA Forest Shapers」を結成し、森づくりへの共感を広げながらコーヒーの未来をつくっていく。

安藤寛人さん

Shapersの一員となった奈良県在住の高校1年生・安藤寛人さんは「参加する前は、業界が直面している問題ばかり話し合うものと思っていたが、コーヒーの魅力を伝える生産者さんやロースターさんの声を聞いた時に視点が変わった。むしろその方が問題解決に近づける気がした」とコメントした。

峯原琴音さん

自身の興味・関心からTYPICA Webサイトより問い合わせメールを送った神奈川県在住の高校3年生・峯原琴音さんは「はじめて飲んだスペシャルティコーヒーの味に感動して以来、コーヒーの世界を探求していくうちに2050年問題や環境問題にたどり着き、社会問題も他人事ではないと思うようになった。タンザニアの生産者の方から『色々課題はあるけど、TYPICAやロースターがコーヒーを美味しく提供してくれているから続けられている』という話を聞いて、つながりや信頼関係は大切なものだと学んだ」と振り返った。

新しい共働態を育んでいく

創業以来、美味しいコーヒーのサステナビリティを高めることをミッションとして、ダイレクトトレードの民主化に取り組んできたTYPICAは、ダイレクトトレードを「生産者とロースターがつながり、出会い、共鳴し合うことでより良いコーヒーとコミュニティの関係性が年々深まっていく営み」と定義している。

その営みを推進し、共感を共働へ、共働を永続的な発展へとつなげていく新たなプロジェクトが「コミュニティが育むコーヒー祝祭文化- TYPICA Collective 2025 Brazil」だ。

Fazenda Chapadão/ホドリゴ・アンドラーデ

アジア、ヨーロッパ5ヵ国のロースターが参加した第1回TYPICA Collectiveは、2025年に9月中旬にブラジルで開催。選りすぐられた10組の生産者から選ばれたFazenda Chapadão(シャパドン)のホドリゴが今回のイベントのために来日。自分たちの農園の歴史や仕事への思いについて壇上で語り、「ここにいることは私たちの努力が認められた証だと思う。この思い出は一生忘れないだろう」と感謝の意を述べた。

ロースターが個性や魅力を讃え合い、育み合う場

一杯のコーヒーに投じられている労力や価値を飲み手が理解することで、その価値に見合う適正な対価が支払われ、生産者に還元されていく。そんな世界を具現化する手段のひとつとしてTYPICAが実施しているプロジェクトが、3度目の開催を迎えるTYPICA GUIDEだ。

1日目には会場内でFinal Roundが開催され、全国195軒の1-Star Roastersのうち、各エリアから推薦された9名の2-Star Roastersが出場。7分間のプレゼンテーション&ブリューイングをもとに、特別推薦人と一般参加者(来場者とオンライン視聴者)の投票によって、3-Star Roasterが決定した。

LUSH-COFFEE Roaster&Laboratory・吉田光佑さん

3-Starに選ばれた東ティモールコーヒー専門店・LUSH-COFFEE Roaster&Laboratoryを営む吉田光佑さんは「プレゼン中、込み上げてくる涙を抑えられない場面があった。今日のプレゼンを通して、少しでも多くの人々に東ティモールの人たちの思いを伝えられていたらうれしい。すべての人々の生活を豊かにできるよう尽力していきたい」と喜びの声を語った。

世界経済フォーラム日本代表/ビング・チョムプラソップさん

最初から最後まで最前列でこのファイナルラウンドを観覧していた一般参加者の男性は、「(2番手の発表者である)Encore! Coffeeさんの常連なので、彼の発表だけ見たら帰るつもりだったが、おもしろかったので全部見てしまった。普段生活している中でモノの背景に思いを馳せる機会はあまりないので貴重な機会になった」と振り返った。

特別推薦人からは「コーヒー業界を特別なものにしているのは人だと私は信じている。皆さんは、生産者たちのストーリーや想いを日本、世界へと伝える素晴らしいアンバサダーだと感じた」(世界経済フォーラム日本代表/ビング・チョムプラソップさん)、「コーヒーが人生そのものという皆さんが集まり、同じ方向を向いて歩んでいらっしゃると感じた。本当に感動した」(小川珈琲株式会社 代表取締役社長/CEO 宇田 吉範さん)というコメントが贈られた。

ロースターの役割は生産者の代弁者だけではないんだ、という気概が伝わってきた。川上から川下だけでなく、川下から川上へも思いや願いが伝わるような物語をこれからも紡いでいってほしい──。

あるコメンテーターからはそんなメッセージが語られたが、それぞれの木や草花が違いを活かし合うからこそ、ダイナミックに生成発展し続ける森と同じように、各ロースターが唯一無二の輝きを放つからこそ、生産者やコーヒーラバーと響き合いながら業界を発展させていく──。そんなTYPICAの理念を象徴する一幕となった。

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おかげさま=和の心と感謝と意志

スペシャルティコーヒーの台頭により、コーヒーは豊かな個性を内包し、純粋にその風味や多様性を愉しめる飲み物だと知られるようになった。今回、EXPOに訪れた3万人を超える来場者も、色とりどりのコーヒーを楽しむことができただろう。

参加者の女性は「コーヒーが大好きなので、このイベントを目的として万博に来た。普段は2〜3種類のコーヒーを1週間ごとにローテーションで飲んでいるけれど、今回は普段飲まないフルーティーなコーヒーを飲んで知らなかった美味しさを発見した。おまけに、3種類のコーヒーを飲み比べることで個性が鮮明に感じられた。世界が少し広がった気がした」と感想を語った。

韓国・Travertine Coffee Roastersのメンバー

一方、韓国・ソウルからはるばる来日し、2日間出店したTravertine Coffee Roastersのメンバーはこう振り返る。

「韓国のスペシャルティコーヒー市場では、消費者との直接的なコミュニケーションに一定の限界を感じていたので、新しい市場や文化で消費者と出会う可能性に期待していた。単なるブランドのプロモーションではなく、国境を越えた“真の交流の場”を体験したいという思いで参加を決めた。

イベントでは多くの来場者から温かい反応や好意的なフィードバックをいただき、販売面でも予想以上に多くのコーヒーを提供できた。ただそれ以上に、海外の市場でも私たちのコーヒーが受け入れられ、共感を得られると実感できたことに意味があった。

特に印象に残っているのが中年の日本人男性。スマホの翻訳アプリを使って、『このイベントでたくさんのコーヒーを飲んだけれど、ここのゲイシャが最高だった』と、帰り際に笑顔で伝えてくれたとき、心がとても温まった」

左から多摩美術大学名誉教授・西岡文彦さん、TYPICA CEO・後藤将、TYPICA取締役社長・葛西龍也

TYPICAが目指しているのは、こうした一人ひとりのしあわせが、みんなのしあわせへと連なる世界である。TYPICAが2025年を「コーヒー祝祭文化共創元年」と位置づけたのはなぜなのか?

「そもそもコーヒーを含めた農作物の収穫は、古来よりコミュニティ全体で祝うお祭りごとだった。豊作を祈り、共働し、感謝し、ともに祝い合う行事として、地域コミュニティの生活そのものとコミュニティ全体の意思を育みあう、かけがえのない営みだったのだと思う。

けれども、支配する側と支配される側に構造と意識が分断された途端、効率性や生産性、利益ばかりが優先されるようになり、何よりも大切で尊い人間の良心が働きにくくなった。その現状への問題意識を皆で共有しながら、本質的な祝祭文化をコミュニティ全体で改めて共創していきたいと考えた」

その祝祭のひとつとなるEXPOの底流にあるのが「おかげさま」の精神だ。

「貧困状態に置かれているコーヒー生産者は多いけれど、『支援する側』『支援される側』という枠組みでは捉えていない。生産者が美味しいコーヒーをつくれば、市場価値が高まり、生産者の暮らしが豊かになっていく。事業の成長とともに、貧困、人権、環境といった社会問題も解決していく。私たちは『ともにしあわせになるしあわせ』という価値をベースに事業を育んできた」(後藤)

ダイアローグ「お陰様の光と陰」のモデレーターを務めた多摩美術大学名誉教授の西岡文彦さんは、「ミケランジェロの彫刻は、真っ白な石に彫ってあるだけで線が書かれているわけではない。それでもイエス・キリストの顔、マリア様の顔に見えるのは、彫ってある溝、凹みに影があるからです。その影が顔や姿を描いている、つまり影が光を見せている。おかげさまという意味では、陰をつくる木がコーヒーを守り育てることを知って大変感動しました」とコメントした。

この「おかげさまの森」構想を大局的に見ると、超シルクロードとも言える。中国から地中海沿岸を結んだ広大な交易ネットワークとして、物資のみならず思想や宗教、芸術をも媒介し、東西で文明間の対話の道となって今のグローバル経済を開いたのが、シルクロードである。一方、コーヒーベルトを一周する森づくりは、コーヒーを媒介におかげさま(和の心と感謝の意思の象徴)の森を将来世代へと永続的、発展的に繋いでいきながら、世代間の対話と共働の道も開いていく。

物質的な豊かさばかりを求め、消費を幸福として成長が促される、金やモノ中心のグローバリズムから、志とおかげさまの心により導かれる精神的な豊かさを育みあい、良心を源とした公共幸福のための人間生活と経済活動への進化を担う、グローカル(Think Globally, Act Locally)なOKAGESAMAコミュニティへ──。

「ビジネスはあくまでも、経済成長と人類の幸福、サステナビリティが調和した世界をつくり、一人ひとりの世界観や生き方を変容させていくための手段である」という確たる思想をもって事業を展開してきたTYPICAが大阪・関西万博という歴史的な舞台で催した当イベントは、そんな大転換を紡ぎ出す種を人々の心に蒔いたのである。

撮影:Kenichi Aikawa

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