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「顔が見える」「つながる」の先へ。永続的発展へ踏み出した一歩
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TYPICAの年次総会「TYPICA Annual Meeting」は14日、東京ビッグサイトで最終日を迎えた。「SCAJ 2022」のTYPICAブースではこの日も各国を代表する生産者やロースターと生活者、コーヒー業界関係者が行き交い、カッピングやプレゼンテーションを通じて交流を深めた。
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最終日は独立系スペシャルティコーヒー雑誌「Standart」の行武さんと、TYPICA代表の後藤のトークセッションで幕を明けた。行武さんは2019年のTYPICA創業以前から後藤と親交が深く、TYPICA草創期の「全国キャラバン(国内7都市で開催したロースター向けのカッピングイベント)」にも関わった。オランダ・アムステルダムで後藤からTYPICAの構想を初めて聞いた時の感想を問われ、「規模が大きすぎて何を言っているのか分からなかった。何回も会ううちに『この人、本気なんだ』って分かった」と明かし、参加者を笑わせた。
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世界70ヶ国に定期購読者のいるStandart。そして、世界中の生産者やロースターの物語りをコンテンツとして発信しているTYPICA。互いにメディアであることから、話題は編集の仕事にも及んだ。Standartのコンセプトは「カフェの感覚を雑誌にする」。行武さんは「カフェではコーヒーを軸に他のテーマを語るのと同じで、私たちも歴史やビジネス、アートについて書いている。インタビューで心がけているのはコーヒーそのものではなくコーヒー以外の何に情熱を持っているのかに迫ること。正直、その人がどんな企業で働いているのかには興味がない。その人にはどういうストーリーが背景にあるのか、パーソナルな部分を(読者に)見せたい」と話した。
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この日のハイライトは、TYPICAブース最後のプログラムとなったカッピングだ。9月にボリビアで開催された「TYPICA Lab」で、日本のロースターが滞在したNayra Qataの生産者チームの周囲には人だかりができた。一人一人がスペイン語で品種や生産時の工夫を伝えた。ボリビアのカップオブエクセレンスに代わるコンペティション、大統領カップで1位になったことがあるGorrionのセルソさんは「パンデミックなどの要因でボリビアからコーヒーが輸出できない時期もあった。多くのロースターが目の前でカップを取ってくれているのが嬉しい」と感謝の思いを伝えた。
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このカッピングで33種類のコーヒーを用意したTYPICAオリジンチームのアーネスト。コーヒーの世界で10年以上働いてきたが、「生産者が立ち合うカッピングはこれまでにも経験しているが、せいぜい生産者は1人、コーヒーの種類は2,3くらい。これだけ多くの生産者とロースターが一堂に会する機会はまずない。こんなワクワクする経験は初めて」とその感動を表現した。
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5日間にわたり、生産者とロースターに光を当てる多様なプログラムが用意された年次総会は学びの場となった。国内を代表するロースターも数々の新鮮な体験に触発されたようだった。
「TYPICA Lab」にも参加し、Nayra Qataのカッピングを終えたLATTESTの宗広さんは、同じロットでも標高4000m近いボリビア現地とブースでのカッピングでは違いが生まれることを体感した。「ボリビアでは美味しいと感じにくかったものがここでは美味しいと感じたり、環境条件に関係なく美味しいものがあったりと、驚きつつ楽しませてもらいました」と生産者にコメントを送った。
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11日の「Producer Award」で、ある生産者が「どこに生まれるかは関係ない」と話していたことが忘れられないというMANLY COFFEEの須永さん。自身のトークセッションでは言葉を選びながらこう語りかけた。
「本などで情報として得る『生産者イメージ』ではなく、プレゼンテーションを通じて生産者の人生と想いをリアルに感じられた。やりたいことをすぐ叶えられる人もいれば、私のように苦労する人もいる。環境は大事。だけど、何かをしようとするときに環境は関係なくて、自分自身がどうありたいかを意識し、今に集中していくことで道が開ける。ぜひみなさんも日々を、そしてコーヒーを楽しんでいただきたいと思います」
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最後の夕食会。生産者とロースター、TYPICAメンバーらは東京湾の遊覧船上で語らい、活躍と再会を誓った。想いの力、コミュニティの力で永続的発展を追求するというミッションを胸に、それぞれの帰路についた。
コミュニティがもっと広がり、美味しいコーヒーのサステナビリティを高めたいという想い。5日間の国際コーヒーミーティングを具現化した同志たちの想いは新しいコーヒー文化を創造し、未来を切り拓いていくだろう。
文:竹本拓也
写真:Kenichi Aikawa
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