Spacer
2022.11.21

3-Star Roaster:Raw Sugar Roast×TYPICA」アフタートーク:コーヒーがメディアであるために

2022年10月13日、東京ビッグサイト(SCAJステージ)で開催した「TYPICA GUIDE Final Round」。日本の各エリアで推薦された7名の2-Star Roasterがステージでプレゼンテーション&ブリューイングを行い、特別推薦人と一般参加者が推薦したいロースターを決めるこのイベント。見事、3-Starに選ばれたRaw Sugar Roastの小坂田さんと、特別推薦人のKREVAさん、向さんを招いて、トークセッションを行いました。

物語りはもっと前から始まっている

後藤:皆さんお疲れさまでした。本日の感想と小坂田さんへのメッセージを、KREVAさんからよろしくお願いします。

KREVA:小坂田さん、おめでとうございます。皆さん見てて、自分たちにも飲ませろっていう気持ちが強かったと思いますけど、味は本当に甲乙つけがたいものだと感じました。

彼が他のロースターの方とちょっと違うなと思ったのは、味の表現の仕方。味を表現するときにフルーツを選ぶのはコーヒー界の定番だと思うんですよ。特にアプリコットとかグレープフルーツとか、柑橘系のものが多かったりする。

でも俺は美味しいコーヒーの香りを嗅いだ時に、和食の出汁に近いものを感じることがよくあって。ワインでもそう。だから「このコーヒーにはトマトを感じる」と言われた時に、それだ!って感じられたところが素晴らしいなと思いました。

後藤:ありがとうございます。では、次にWWDJAPANの向さん、よろしくお願いします。

向:小坂田さん、最初に音楽のスタートの仕切り直しをされたじゃないですか。あれがまずなんか違うと思ったのと、小坂田さんが話している間にどんどん会場の熱気が高まり、みんなが引き込まれていくのを背中でもすごく感じたんです。会ったこともない生産者の方たちの情熱みたいなのが小坂田さんを通じて入ってきたところにも惹かれました。

後藤:小坂田さんどうでしょう、今のお気持ちは?

小坂田:プレゼンテーションもそうですし、味が伝わったのは、やっぱり僕ら作り手としてすごく嬉しいです。ただステージでも言ったように、物語はもっと前から始まっているので、その最終地点であるカップに入った時に伝わったことがすごく嬉しいです。

後藤:実は今日、かなりスケジュールが難しい中で無理を言ってKREVAさんにお越しいただきました。ここでKREVAさんは退出されるので、ぜひ最後に一言お願いします。

KREVA:人と人のつながりみたいな話がすごく多いなと思いました。僕らはたとえば音楽を作ったらMAX何億人とかに同時に届けられる可能性がある。だけどこの一杯のカップを自分のために作ってくれる機会ってものすごい貴重だし、一杯一杯大事に飲みたいなってすごく思わせてもらいました。ありがとうございました。

後藤:ありがとうございました。次に特別推薦人として、TYPICAの山田から小坂田さんへのメッセージと感想をお願いします。

山田:小坂田さんお疲れ様でした。登場された時から、ロックスターのような輝きを放ってらっしゃったなって思います。ロースターさんとかバリスタさんは、プレゼンターとして、生産者の想いや美味しさをどう伝えていくか、日々試行錯誤されていると思うんですけど、かっこよくて華やかだから思わず見てしまう、話を聞いてしまうみたいなところが、皆さんに伝わったのかなと思います。

しかもそこには生産者さんへのあたたかい思いとか、Rockbernで言うとフィロソフィーの共感っていうすごい人間臭い部分もあって、そのギャップにみんなやられたのかなと。これからもそういう表現をもっと追求していただきたいなと思います。

後藤:では本番について振り返っていきたいと思います。小坂田さん、最初に音楽を「もう一回やり直してくれ」とリクエストされたことで、皆さんの気持ちにスイッチが入ったと思うんですけど、どういうことだったんですか?

小坂田:今日ステージ上でかけた一曲目は、僕が大好きなマディ・ウォーターズっていう人の曲なんですけど、バンド全体が同時に入ってくる場所があるんですよ。僕はプレゼンをエンターテイメントだと思っているので、曲の始まりにピッタリ合わせたんですけど、スーパー緊張してて。原稿も飛んじゃうし、手も震えちゃうし。普段片手で持つケトルを両手で持ってみたり。

後藤:こちらからはあまり緊張してそうには見えなかったですけどね。

小坂田:クールを装ってたんです(笑)。最後も「残り1分です」って聞こえた時に、言いたいことが間に合わないし、全部飛んじゃって、原稿が手元にあると見ちゃうので、最後はアドリブというか自分の思いをこの1分に全部詰め込もうと思って、全部話させてもらいました。

後藤:本当に情熱が伝わる素晴らしいプレゼンテーションだったことは結果が物語っていると思います。

小坂田:ありがとうございます。

Spacer

カルチャー=耕して育てていくもの

後藤:では、向さんにもお話をお聞きしましょう。「コーヒーを愛する全ての人々によって育まれる」というのがTYPICAのコンセプトなので、全てTYPICAとご縁があり、普段からコーヒーが好きな方々に特別推薦人になっていただいています。今回、私の友人経由でその役割をお引き受けいただきましたけど、いかがでしたか?

向:最初は初めての経験だなと思ったんですけど、TYPICAの皆さんとお話ししているうちに、あっという間に馴染んだ感じがあります。ファッション業界ではよくカルチャーという言葉を使うんですけど、改めてコーヒーもカルチャーなんだなとすごく感じました。カルチャーには『耕す=土地を耕して豊かなものにしていく』っていう語源がありますけど、まさに今回も、会ったこともない国の人たちのカルチャーが一杯のコーヒーを通じて自分の中に入ってくる感覚がありました。その経験は、洋服を一枚着た時にデザイナーのカルチャーを感じるのと全く一緒で、すごくエキサイトしました。

後藤:ありがとうございます。特別推薦人の皆さんに、全てのビデオプレゼンテーションを事前に確認いただいた時期は、ちょうどファッションウィークの期間でしたよね?

向:そうですね。でもファッションショーとビデオプレゼンテーションを見て考えることはかなり近くて。クリエイターの方のルーツは何で、何を大事にされていて、どんな未来を見ているんだろうって思いながらファッションショーを見るんですけど、まさにそれと一緒で。

ファッションウィークとビデオプレゼンを交互に見ながら、小坂田さんは日本にルーツを持っていて侍っぽいな、時代を切り開いていこうとされている方なのかなと、映像を見て感じていました。今日、革命という言葉を聞いたときはチェ・ゲバラっぽいなと。

後藤:ファッションウィークという一番忙しいタイミングでお願いするのが非常に心苦しかったんですけど、一件一件のロースターさんに全てコメントも書いてくれてましたよね?

向:書きたくなります。正直言うと、一件、家の近所のロースターさんがあって、すごく心が動いちゃったんですけど、味のことは忘れようと思いながら見ていました。あまりに皆さんが情熱をこちらに届けてくださるので、お会いしていないですけど、手紙に返事を書くような感じで一つひとつ書きました。

後藤:ファッションとコーヒーはカルチャーという点で共通する部分があるとおっしゃいましたが、まさにスペシャルティコーヒーは、これからより耕し、成長していくスタート地点にあると思います。そんな業界やロースターさんに向けて何かコメントお願いします。

向:私はファッションの中で今、サステナビリティを課題として取材しているんですけど、誰がどこでどんな思いでつくったのかという透明性を大切にする姿勢は全く同じだなと。TYPICAさんの取り組みでは、生産者の方たちの想いだけではなく、技術や品質を含めて透明性を持って届けるところにすごく共感します。

後藤:ありがとうございます。小坂田さん、お店の方が3〜4日前にエアロプレス大会で優勝されたりとか、今乗りに乗っているロースターさんの一つだと思います。これから業界やカルチャーを耕していく上で、どんなことを大切にしていきたいですか?

小坂田:スタッフが頑張ってエアロプレスの日本チャンピオンになったことで注目していただいて、急にすごく忙しくなったなと感じています。ただ、いつまでも謙虚深くいこうと思っています。

僕らの目的って、大きくいうとコーヒーで人の生活を豊かにすることなんですけど、それを細かく砕いていくと、スペシャルティコーヒーに関する知識や品質を消費者に伝えることなんですね。僕らロースターやバリスタが伝えるっていう責務を感じながら、一般消費者の方たちにより多く、正しく知っていただくことが目的ですね。

TYPICAさんのおかげで現地の生産者さんの声もダイレクトに聞けるので、それを僕らは反映し、増幅回路となって、一般の方たちにもっともっとコーヒーを知っていただきたいというのがあります。 僕らはいわゆるコーヒーカルチャーの底上げをしたいんです。

後藤:すごいですね。小坂田さんの言葉は、心の底の底から出ているのが伝わってきます。

向:スターだなって思います。

小坂田:声の出し方です。(笑)

後藤:それはテクニックなんですか?(笑)

小坂田:いや、違います。(笑)

向:私からも一つ伺いたかったのが、豆を提供してくれたピーターさんの目の前でプレゼンテーションするのはどういう気持ちだったんですか?

小坂田:やっぱり彼がキュレーターとして、ケニアのニエリ地区という生産地のコーヒー豆を選んで僕らに届けてくれたので、ちゃんと焙煎して、ちゃんと伝えていることを見て欲しかったんです。

向:すごい瞬間だなと思って。東京のこの会場で両者が目の前で分かち合っているのが。

小坂田:初めてです。

後藤:ファッションの世界でコットンの生産者とデザイナーが出会うなんてことはなかなかないですよね?

向:ないですね。「あなたのコットンで服を作りました。どうですか?」って見せるのはめちゃめちゃドキドキすると思うので、すごい貴重な場だなって思いました。

Spacer

「伝えたい」と「伝わる」は違う

後藤:TYPICAでは、コーヒーを『飲み物』と同時に、物語りを伝えるための『メディア』だと捉えています。なので、生産者、ロースターの方々と一緒にコーヒーを発信していく取り組みにもかなり力を入れています。

普段向さんは、伝えることをプロフェッショナルとして最前線でやられてきたと思います。これからコーヒーをメディアとして伝えていく上で、ぜひ最後に小坂田さんにアドバイスを。

向:本当に難しいことですけど、頑張って答えます。クリエイターの方は皆さん、本当に強い想いや技術、情熱がある。でも、『伝えたい』と『伝わる』は違うというのはよく思います。コーヒーの世界でも、飲む人たちのことを理解しよう、目の前にいる人たちを幸せにしようとする思いが、情熱に加われば伝わるんじゃないでしょうか。まさに今日は小坂田さんが体現してらっしゃいましたが、そこは今後トップになっても忘れないで欲しいところだなと思います。

後藤:伝えようとしなくても、幸せにしよう、喜んでもらおうとしたら伝わる。本当に素晴らしいコメント、ありがとうございました。

今回「TYPICA GUIDE」を統括して作ってきてくれた、コミュニティーマネージャーの藤原からも今日の感想やメッセージをもらって、この場を閉めたいと思います。

藤原:私もいろんな人にコーヒーを知ってもらいたい、たとえば「浅煎りのコーヒーってちょっと酸っぱいから苦手」って友達から言われたりしたときに、コーヒーって美味しいのになぁ、ロースターのお店をおすすめしたいなぁという気持ちがありました。

そんな中で、この企画を進めていくに当たって、ロースターの皆さんからの応募やプレゼンテーション動画を通して皆さんの熱い想いを一番最前線で受け取ることができたかなと思います。正直、夜な夜なプロジェクトを作っているときに感極まって涙が出てしまう瞬間もありました。

だからこそ今日は、お一人お一人のプレゼンテーションを聞きながら本当に熱い気持ちになって、でも涙は堪えながらやり終えた今、本当に気持ちが高まっています。今後もロースターの皆さんにとって素晴らしいサービスとなるように頑張っていきたいと思いますので、よろしくお願いいたします。

後藤:ありがとうございます。山田の方からも一言お願いします。

山田:さっき向さんからもあったように、スペシャルティコーヒーは難しいイメージが強くて、ダイレクトトレードで生産者にちゃんと還元していることを伝えるのは意外と難しくて。消費者の方はそんなことより美味しいコーヒー飲みたい、みたいな方に気持ちが動いてしまいますからね。ファッションでもそうかもしれない。デザインがいいものが欲しいという方に気持ちが動いてしまう。

でも、素晴らしいプレゼンテーションをするロースターさんがいて、たとえば小坂田さんかっこいい、小坂田さんの話聞いてみたい、という動機で店に行ったとき、その奥にある生産者の物語りが自然と伝わっていくのが、すごく美しい流れなのかなと思いました。そんなロースターさんを増やしていくことが『It’s a New Wave』なのかなと思ったので、小坂田さん、これからもご活躍期待しています。

小坂田:ありがとうございます。

後藤:「TYPICA GUIDE」は本日、日本から発表させていただきましたが、韓国、台湾、ヨーロッパへと広げていく構想を描いています。今日、この瞬間から皆さんと「TYPICA GUIDE」を始められたこと、心から感謝いたします。そしてそのことを皆さんに心から喜んでいただける未来に向かって、僕たちは全力でやっていきますので引き続きご注目いただければと思います。