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学び、対話、感謝を一つの空間で。TYPICA初のロースタービジット
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スペシャルティコーヒーの生産者が日本のロースターを訪ね、生豆が生活者にどのように提供されているかを体感する「ロースタービジット」が7日、関西エリアを中心に始まった。初日はTYPICAと関係性が深いアフリカや中南米、アジアなど11カ国の生産者ら約30人が4チームに分かれ、大阪、京都、名古屋、東北を訪問。ロースターとの対話やカッピングを楽しみ、コーヒーを”共通言語”にしてつながりを深めた。
TYPICAが本年度から新たに始める年次総会「TYPICA Annual Meeting」のプレイベントとして企画した。日本のスペシャルティコーヒー業界を牽引するロースターを生産者が間近で見ることで、両者の関係性を密にしてもらおうという狙いがある。世界各地のスペシャルティコーヒー生産者によるロースターの「直接訪問」という、世界でも類を見ないイベントとなっている。
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一行は7日午前、大阪有数のオフィス街・中之島に今年6月にオープンした「GLITCH COFFEE OSAKA」に到着。一面ガラス張りで開放感のある天井が特長で、アンティーク家具をしつらえた座席スペースではスタッフがセレクトしたレコードの音楽が流れている。東京・神保町で生まれたショップの3軒目にあたる。
コミュニティマネージャーの曽根さんは「4年前からTYPICAの豆を買っていただき、大切に関係を深めてきたロースターさん。GLITCHでフルーティーなコーヒーの美味しさに目覚め、コーヒー観が変わってしまう人が後を絶たない」とその影響力の高さを伝えた。続けて「私が説明するよりも飲んでいただいた方が良い。トップ・オブ・トップを体験してください!」と切り出すと、生産者たちはお気に入りの豆を見つけようとカウンターを取り囲んだ。
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カッピングを楽しんだジャバフリンザエステイト(インドネシア)のフィクリさんは「テイスティングノートを細かく記載した名刺大のカードを添えてくれるところが実にユニーク。インドネシアでも簡単なメモを添えることはあるが、こんなに作り込まれていない。生産者の一人としてこれ以上ありがたいことはない」と唸っていた。
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アカシアヒルズ(タンザニア)のレオンさんは「店づくりから一杯のコーヒーを提供するまでが一つのアートだ。細部へのこだわりがなせる業なのだろう」と感じ入っていた。
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GLITCHスタッフの田畑さんは、生産者とスタッフだけでなく、生産者とTYPICAメンバー、生産者同士がコーヒーを片手に思いを伝え合う姿に胸を打たれたという。「コーヒーで人と人をつないでいることのすばらしさを今リアルに感じている。もっとコーヒーの魅力を伝えていかないといけないと思った」と話した。
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一行は3グループに分かれ、ローカルツアーも楽しんだ。
大阪グループは心斎橋を巡り、食いだおれの街・大阪が誇る「粉もん文化」をセレクト。熱々のたこ焼きやお好み焼きに舌鼓を打った。
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その後天王寺に展開する「The Coffee Market」を訪れ、オープン前の新店舗を特別に見学。この日のために用意されたいちじくの焼き菓子とスペシャルティコーヒーとのペアリングを楽しんだ。別れ際、生産者たちは自国から持ち寄ったTシャツなどをオーナーの古家さんにサプライズでプレゼント。古家さんとスタッフのおもてなしに感謝を伝えた。
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Woolis(ドイツ)の創業者でメキシコ出身のアンジェリカさんはThe Coffee MarketのスタッフやTYPICAメンバーにも興味津々の様子。時間を見つけては全員に話しかけ、「どうしてコーヒーと出会ったの?」「コーヒーの何に惚れたの?」と質問攻めにしていた。「ラテに挑戦したい!」と手を挙げ、スタッフに頼み込んで”弟子入り”する一幕もあった。
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スタッフの一人、竹村さんは「たとえ言語が違っても、コーヒーがここにあるだけでどうしてこんなに話が尽きないのか。あまりに興奮してしまい焙煎の管理を忘れてしまったが、それもいい思い出です」と笑顔を見せた。
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一方、京都グループはGLITCHの後、ロースター2軒を訪ねた。フィンカイザベル(ボリビア)のガブリエラさんは「ボリビア産のコーヒーがどこでも扱われていないことが興味深かった。訪れたロースターはどこもベストを尽くしている。私たちはもっと努力しなければいけないことを改めて自覚した」と振り返った。
各チームが夜遅くまでカッピングや会食を楽しみ、スペシャルティコーヒーの現在、そして未来を語り合った。
文:竹本 拓也