スマトラ島の未来を担う新世代
数あるスマトラ島の生産者のなかで、Central Sumatera Coffee(CSC)は気になる存在だった。その理由は、一回目のオンラインミーティングから、CEOのエンゾが勢いのいい起業家のオーラを発していていたからだ。いわば、彼らから私たちと同じ匂いを嗅ぎ取ったのである。一緒に成長していきたいと思えた。それがCSCとパートナーシップを結びたいと思った一番の理由だ。もちろん、彼らのコーヒーがスペシャルティコーヒーのマーケットに完全に対応するクリーンカップであったこと、そしてそれらが主にクラシックな精製方法であることにも惹かれた。2023年度のCOEで5位を獲得したことも、彼らの実力を証明した。
いつも忙しそうなエンゾのスケジュールの合間を縫って、CSCについて詳しく話を聞いた。
CSCの全体像を教えてください
「私たちはスマトラ島北部のアチェ州に標高1,300〜1,400m、100haを超えるアラビカ種の農園を所有しています。さらに厳選した数軒の農家と協力し、彼らからコーヒーを購入しています。コアになるチームメンバーはCEOの私を含めて8人。親しい友達や信頼できる人が奇跡的に集まってくれました。まだまだ小さなチームで、繁忙期は今のようにパソコンの前に座る時間もあまり取れないくらいです。信頼する仲間とともに、有機的に成長しています」
私たちはCCOのヘンドラとも話をしたが、パワフルで情熱的なエンゾと対照的に彼は理路整然した話し方をする実務家タイプで、それぞれの強みを活かして仕事をしている様が想像できた。
CSCはどのようにして始まったのですか?
「私は地元であるスマトラ北部の大学で経営学を学び、その後、ジャカルタに移りいくつかのテック企業で働きました。しかしながら、こどもの頃から心の奥底で農業に興味を持っていたので、インドネシアのコーヒーについて個人的なリサーチを始めました。その中で、マンデリンと呼ばれるコーヒーであってもその品質は様々で、それが本当のマンデリン、つまりマンデリン産のコーヒーであることを証明するのは難しいということが分かり始めたのです」
そのようなマーケットに対する疑問から始まり、エンゾのコーヒー生産に対する情熱は膨らみ続けた。そしてついに自らコーヒー農園を開くことを決意する。
「幸運なことに、コーヒーの名産地であるアチェ州のベネル・ムリア県に家族が住んでいたので、そこで起業することを決意しました。大都市ジャカルタからベネル・ムリアに移り住み、いちからコーヒーの栽培と精製を学びました。そして土地を購入し、ジャバ島から持ってきたティピカ種を植えるところから事業を始めました」
ビジネスにおいて最もチャレンジングなことは何ですか?
「最も大きいのは気候変動の問題です。今年は特に雨が多く、精製に時間がかかっています。グリーンハウスでコーヒーを乾燥させるなど工夫を重ねているところです。
また、スマトラ島のコーヒーの価格が上昇し続けていることも挙げられます。近隣国であるインドや中国で高品質なコーヒーの消費量が増え、スマトラ島にバイヤーが押しかけて来ている状態です。これがスマトラの未来にどう影響するかはまだ分かりませんが、いい状態ではないと感じています」
地球環境と世界情勢のうねりの中で、バイヤーにとってもスマトラ島のコーヒーの調達は年々難しくなっている。エンゾたちの世代によってスマトラのコーヒービジネスもかたちを変えざるを得ないだろう。
私たちは野心家である彼らとともに、スマトラ島のコーヒー産業と関わる第一歩を踏み出した。彼らとコーヒーの未来を追い求めたい。
文:山田彩音