第一回全国キャラバンを終えて。
昨年末からこの春にかけての日々は、嵐のように過ぎ去っていった。
11月にアムステルダムへ移住し、12月にエチオピアを訪問。2月にグアテマラとニカラグアを訪問し、3月に東京から福岡までのプレゼンテーションカッピング。その間、世界中を席巻した新型コロナウイルス・・・。
ウイルスの影響の間をすり抜けるように国から国へ、街から街へ移動し、朝目が覚めると、今自分がどこにいるのか、一瞬分からななくなるような日々だった。
コーヒー生産地を訪れるのは、私の個人的な夢であり、それが半年の間に、瞬く間に叶ってしまい、正直その幸せを実感する間も無かった。今から文章に残すことで反芻し、みなさんに還元したい。
日本に一時帰国し、福岡でラストのイベントを終えて、実家の兵庫県に戻り、やっと心と身体を今ここに落ち着けて、この文章を書いている。
東京から福岡まで、7都市8箇所のプレゼンテーションカッピング(私たちは全国キャラバンと呼んでいる)は、想像をはるかに超えた数のロースターさんから共感を得られた実感がある。90件ものロースターさんと繋がり、112名の方にカッピングにご参加頂いた。そして、参加ロースターさんの半数からご予約を頂いた。しかも、誰もが知る実力派のロースターさんほど予約率が高かった。それは、このTYPICAの構想がロースターさんのニーズに合致したのか、単純に生産者さんが提案してくれた生豆のクオリティが高かったのか、そのどちらもなのか・・・。いずれにせよ、嬉しい誤算だった。
そして、シンプルに「ロースターのみなさんは本当にコーヒーが好きで、真剣に向き合っている」と感じた。コーヒーは嗜好品で、無くても生きてはいける。ウイルスが行動も精神も支配しつつある現状から見ると、ますますそう思える。実際に「こんな状況でも、プレゼンテーションカッピングを開催するのですか?」という声もあった。でも、コーヒーはとんでもない魅力と中毒性を備えた飲み物であり、ある一部の人にとっては間違いなく生活必需品である。コーヒーの香りを楽しんだり、ワイングラスを傾ける時間は、こんな状況だからこそ、必要なのかもしれない。
こんな状況下で、きっとお店も大変な中、プレゼンテーションカッピングに参加して下さったロースターさんに改めて感謝を伝えたい。そして、コーヒーを心の必需品とする方へ、無理の無い範囲で、美味しいコーヒーを提供し続けて欲しい。
全国キャラバンを通じて、課題が浮かび上がり、悔しい思いをした一面もあった。夜の反省会で全員で泣いたこともある。でも、それは一つ一つクリアにしていくしかない。どんな仕組みであれば、生産者さんにとって、ロースターさんにとって、相乗効果が生まれるのか。特別なコミュニケーションが生まれるのか。
私はAirbnbの創業物語が好きで、創業者のインタビューなどを探してよく読んでいた。彼らは資金調達時、投資家に「本当に全く知らない赤の他人を自分の家の泊まらせるバカがいるの?」なんて言われたらしい。上手く資金調達できなった彼らは、ユーザー体験を調査するために、ニューヨークのホストの家を予約して泊まりに行き、一緒にビールを飲みながらビジョンを語り支持者を得た、というエピソードがある。今回の全国キャラバンは、草創期の私たちにとってそんな感じのものだったかもしれない(恐れ多いし、ビールではなくコーヒーだったけれど)。
Airbnbも、Uberも、すでにあるもの(家やドライバー)とユーザーのつなげ方を変えただけで、世界を変えた。TYPICAもそんな存在でありたい。ロースターさんが生産地と直接つながり、コミュニケーションを取り、経済透明性を確保することで、スペシャルティ・コーヒーのサステナビリティにポジティブな影響を与えることができると、私たちは信じている。
4月の第一週から、グアテマラとニカラグアのサンプルをひっさげて回る二回目の全国キャラバンが始まる。一回目にご参加頂いたロースターさんは勿論のこと、ご予定が合わず、また躊躇していたロースターさんにも是非参加して頂きたい。一緒にTYPICAというプラットフォームを育むメンバーになって欲しい。きっと、日々の生豆の仕入れが、ちょっと楽しくて、奥深いものになるはずです。
山田彩音