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2023.03.23

Revolution】ピーター・ムチリ : Rockbern Coffee

まず、本日この場にお集まりいただきありがとうございます。何より、こうした機会をいただけたことに感謝します。すばらしいイベントです。TYPICAは何を成し遂げたいのか、そのために何をするのか、私たちにはっきりと示してくれました。私たちはそのビジョンに共感しているからここにいます。目指すものがブレていると、結果はついて来ません。

私も今日集まった皆さんと真剣に向き合いたいと思っています。私はこれまでもこうした会合の場で意見をぶつけ合い、未来に向き合うよう、革命的とも言えるほど正直に働きかけてきました。これまでと同じことを続けていては、違う結果は望めません。

私にとって、コーヒーは飲み物であると同時に「自由を得るための触媒」です。世界の歴史を紐解くと、コーヒーは人類が文明や文化を築くために重要な役割を果たしてきました。17〜18世紀にかけてヨーロッパで広がった啓蒙運動にも、コーヒーは登場します。

そして、フランス革命。歴史書を読むと、ロベスピエールとダントンがコーヒーサロンで会合を重ね、戦略を練っていたことがわかります。私にとってコーヒーとは、可能性を広げてくれる題材なのです。

まるで詩のようなものです。終わりのない対話を与えてくれます。サステナビリティなど、様々な事柄について語り合うことができます。ファッションのことだって話せます。このようなコーヒーの会合の場で、服装を褒めていただきありがとうございました。

自由という文脈でコーヒーを考える時、答えを必要としている一つの大きな疑問が浮かびます。確かにコーヒーによって自由がもたらされることはある。だけど、生産者は自由を手にしているのだろうか? 然るべき収入を得られているのだろうか? 

だからこそ、私は議論したいテーマを今日ここに持ってきました。地に足のついた議論をする場ですから。

タイトルは「透明性はカップの中の新しいフレーバー」です。ロースターと同じように、私たちはいつも酸味、ボディ、芳醇なフレーバーを求めています。

私はそこに透明性を加えたいと思います。潜在意識の中で感じるフレーバーです。将来的には、この潜在意識下のフレーバーこそが求められるようになるでしょう。

なぜ透明性が必要なのか? 世界は移り変わっています。意識の高い企業は、販売量ではなく「顧客生涯価値」を重視し始めています。

皆さんはどのような価値を消費者に提供できていますか? デジタル化が進む世界で、感度の高い消費者が増えています。自分が消費しているモノ、愛してやまないモノの背景に何があるのか、もっと知りたいと考えるようになってきています。透明性を阻む複雑な状況を変えるべく、ロックバーンはこの業界に参入しました。

私たちの役割とは何か? そして私たちは何者なのか?

先ほどお伝えしたように、ロックバーンは2012年に創業しました。

私はコーヒー農家に生まれました。祖父は実直なコーヒー農家でした。私がコーヒーの世界に足を踏み入れたきっかけは、1999年に遡ります。ナイロビにある大学に通い始めた時期です。

私はデニムを買うためのお小遣いが必要でした。そこで祖父に会いに行きました。ちょうど収穫の最盛期を迎えた頃でした。

祖父は「農園に働きに来てくれ。精製など手伝ってほしいことがあるから。そうすれば1日1ドルをあげる」と言いました。相場よりかなり高いお金です。

後に分かったのですが、祖父は私にお金を稼ぐことの意味を教えたかったそうです。その気になれば、お小遣いとしてお金を渡すこともできたそうです。

ともあれ、私は祖父の農園で働き、美味しいコーヒーを精製するには多くの知識が必要だと気づきました。

しかし祖父は、一つひとつの理由を明確に説明できませんでした。なぜきれいな水が必要なのか? なぜ一定時間、発酵させる必要があるのか?

そこで私は、科学的な視点で探り始めました。「なぜだろう?」といつも自分の中で考えていました。その時に、私は今は亡き祖父に約束したのです。

ナイロビへ出発する前日、アボカドの木の下で彼と話をしていました。ナイロビの大学に通うために、村を離れることになっていたのです。祖父に「いつかコーヒーに携わって、もっと深く学びたい」と約束しました。

そして今、私は日本にいます。コーヒーが私を日本まで連れてきてくれたのです。コーヒーは私を世界中に連れて行ってくれました。

大学を卒業した私は、エコノミストになりました。会計士でもあります。銀行に就職したものの、心の奥底では、自分が何をしたいのか分かっていました。

2011年には、妻のバニースと結婚しました。そして、自分のやりたいことが明確になりました。私は彼女に「仕事を辞めたいと思っている。起業したいんだ。変化を起こす必要がある。革新的な正直さで、未来に立ち向かわなければいけない」と伝えました。そうして、妻と共にロックバーンを設立しました。

私の名前であるピーターの意味は「石」なんですね。ギリシャ神話に由来しています。妻の名前はバニースです。つまり、ロックバーンはバニースとピーターを組み合わせた造語です。

私はとても社交的でおしゃべりです。皆さんもお気づきだと思います。私の妻はとても思慮深い人です。あまり多くは語りません。私たちのブランディングには、二人の性格の対照性を取り入れています。陰と陽のようなフィロソフィーです。補完し合いながら、2つの力のバランスを取っているからです。

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続いて、カップの中に吹き荒れる嵐についてお話しします。ケニアでは今何が起こっているのでしょう?

ケニアの具体的な現状に対して、私たちが取り組んできたこと、それが与えてきたインパクトについてお話します。

ケニアの現状は…想像し難いでしょうが、悲しいお知らせをしなければなりません。従来のやり方を繰り返していては未来はありません。私が大好きな美味しいコーヒーは、やがてなくなってしまうでしょう。なぜなら、ケニアでは古い世代がコーヒー生産を牛耳っているからです。彼らが独占できているのは、透明性がないからです。

若い世代の人たちにとって、コーヒーはビジネスとして魅力がなくなってしまいました。なぜか?

生産者がコーヒーを納品してから代金が支払われるまでに、とても長い時間がかかるからです。支払いは約6ヶ月後です。支払いを待つ間、実際にいくら稼げそうなのか尋ねても、ほとんどの人が「わからない」と答えるでしょう。

若い人に、このビジネスに参入したいか聞くと、「どれくらい稼げるの?」と逆に聞き返されます。

私は「わからない」と答えるしかないのです。「いつ支払われるの?」と聞かれてもわからない。「頑張って。そんなビジネスモデルには参入したくない」と断られて終わりです。

私たちが挑んでいるのは、TYPICAやその他世界中の関係者と協力して、トップダウンで古いモデルをひっくり返すことです。

私たちは一緒に仕事をしてくれる生産者に、一定の価格、最低価格を保証しています。稼ぐことができるであろう見込み価格を保証しているのです。

私たちは、どれくらいの金額が生産者に渡っているのか、ロックバーンがどれくらいの手数料を支払っているのかをバリューチェーン全体に明示しています。最終的にどれくらいの金額が生産者に渡るのかを示しています。多くの場合、大部分が生産者に支払われています。

それで何が起こったか? とても大きなインパクトをもたらしています。これも繰り返しになりますが、ケニアのコーヒーはとても高価です。つまり、皆さんが楽しんでいる美味しいコーヒーの価格が高いのは、ケニアの労働者に払う費用が高いからです。

理由の一つは、田舎から都市部への人口流出です。若い人たちは、農園で働きたがりません。ITやサービス業界など、他の業界へ人材が流れています。そのため、人件費がとても高くなっています。

先ほど話した不透明な価格とコーヒー価格の下落が相まって、生産者のモチベーションが下がり続けています。コーヒーの世界に留まる人が少なくなってくると、現代的な技術の導入も滞ってしまいます。現代的な技術の導入が滞ると、現代的な生産方法も採用されません。

透明性。つまり、これまでの習慣を覆し、ある程度の金額を保証するという小さな変化だけで、例えば、私たちと取引している生産者や組合は、次の年に稼げる最低限の価格を正確に把握しています。それだけで、とてつもなく大きな変化が生まれています。若者がコーヒーの仕事をするために戻ってきてくれているのです。

若者が戻ってくると、新しい技術、現代的な生産方法の導入が進みます。リーダーシップを発揮してくれる人も増え、活気あるコミュニティーになります。

私たちの役割は生産者とインポーターを繋ぎ、そのつながりを継続させることです。それができれば透明性が生まれ、適正価格での取引が実現できます。

より多くの若者が参入することで、新しい技術の導入が促進されます。適正な価格は、品質の向上、生産性の向上につながります。もちろん収入も上がり、生活水準も向上します。そして、生産者の幸せがロースターの幸せとなり、ロースターの幸せが生活者の幸せにつながるのです。

ありがとうございました。

【Q&A】

Q:以前、脱植民地化とコーヒーの歴史について話したと思います。 色々な大陸における脱植民地化や過去のトラウマを乗り越えることについて、今お話いただいたことをマーケットに持ち込み、

若い世代に伝えていくことについてどう考えていますか?

A:植民地化というものは、マインドセットから始まると考えています。

名前が出て来ないのですが、誰かがこんなことを言っていました。言語を支配する者が、空気感を支配できる。つまり言語を支配すれば、聞こえてくることや全てを支配できる。つまりメッセージを操作できると。そうしたことの一部は、乗り越えられると思っています。

この年次総会も一例です。こうした対話や、それぞれが物語を語り合うこと。人々が知識を習得して、自分たちで判断すること。そういう方法でしか乗り越えられないからです。それがスタート地点だと思います。

もう一つは、これまでお話ししてきた通り、あなたもおっしゃっていましたが、コーヒーは私にとって自由を内包する存在です。「自由」とは、皆、人生でやりたいことができるという意味です。それを謳歌する必要がありますし、自由は私たちの心の中から始まります。楽しむことができるかどうかも、自分たち次第なのです。

Q:ピーター、前回ヨーロッパであなたのコーヒーをオファーした時、どれも素晴らしいコーヒーでしたが、一つとても印象的なものがありました。サンドライコーヒーです。そんなにたくさんはありませんでした。たくさんのロースターに残念な思いをさせてしまいました。

このコーヒーを仕入れることができたロースターも今日何名か来てくれています。今後サンドライコーヒーを増やしていく計画はありますか?

A:そうですね。繰り返しになりますが、私たちのフィロソフィーは、顧客生涯価値です。まさに今、あなたから質問されたようなことがとても重要です。消費者は何を求めているのか、生産者に伝えなければいけません。私たちの最終的な目標は、消費者に対して価値を提供することなので、今後サンドライコーヒーを増やしていきたいと思います。やりましょう。